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2007年03月10日(土) 00時00分

『自白得るため強引取り調べ』 袴田事件元裁判官が会見 袴田巌死刑囚の姉・秀子さん(手前)らと会見する熊本典道元裁判官=9日午後、東京・永田町の衆院第一議員会館で 東京新聞

 一九六六年、静岡県清水市(現静岡市)で一家四人が殺害された事件で強盗殺人罪に問われ、死刑が確定した元プロボクサー袴田巌死刑囚(71)が再審請求をしている「袴田事件」で、無罪の心証を持ちながら一審静岡地裁で死刑判決を書いたと告白した熊本典道元裁判官(69)が九日、東京・永田町の衆院議員会館で記者会見した。熊本さんは「袴田くんを救う最後のチャンスだと思った」と告白した心境を、声を詰まらせながら話した。

 熊本さんは会見前、死刑廃止を求める団体の勉強会に参加。無罪と思いながら死刑判決を書いた経緯を説明した。

 熊本さんは六六年十一月に静岡地裁に着任。第二回公判から審理に加わった。途中から「自白を得るために強引な取り調べをしている。確たる証拠がないからだろう。今の証拠では有罪は無理。『疑わしきは罰せず』に立ち戻るしかない」との思いを強くしたという。

 残り二人の裁判官は死刑を主張。二対一で死刑判決が決まった。熊本さんは「説得できなかったのは私の責任」と話した。

 結局、主任裁判官だった熊本さんは、無罪との心証を抱いたまま、死刑の判決文を書くことになった。裁判所法は評議の内容を明かすことを禁じている。熊本さんは守秘義務に違反した形となるが、「守秘義務は、裁判官を守るため。明らかにするかしないかは、個人の勝手だ」と述べた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070310/mng_____sya_____013.shtml