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2007年03月10日(土) 00時00分

ムーちゃん慕い宿泊日記22冊に朝日新聞

 ムササビの宿と呼ばれる。鹿教湯(か・け・ゆ)温泉(上田市)の「つるや旅館」。住みついて約30年になる。名前は「ムーちゃん」。愛くるしいしぐさで、湯治客らの心をなごませてきた。訪れる人たちは、病気が治ったことや家族が増えたこと、好きな人ができたことなど、それぞれの人生を小さな動物に重ね、日記につづってきた。その「むささび日記」は、もう20冊を超えた。(高田純一)
 ムーちゃんは昼間は、同旅館の露天風呂の木の巣箱で過ごす。夜は、近くの山でクルミやドングリなどのエサを探す。巣箱から顔を出し、時には、館内を走り回ることもあったという。
 経営者の斎藤裕之さん(50)は「うちの主役です」。ホールは、ムーちゃんの写真であふれている。「お客さんにここの自然の魅力をどう伝えようかと思ったとき、ムーちゃんでした」
 両親の靱(じん)一郎さん(86)、修子さん(82)が経営していた77年ごろ、ムササビが正面玄関前のかやぶき屋根に巣をつくっていた。だが、改築と同時に巣から追い出されることになった。
 その後、2年ほど姿を消し、心配していた。ある日、天井裏を騒がしく走り回る動物がいるとお客さんにいわれ、ライトを照らすとムササビだった。改築が終わるのを、近くの森で待っていたらしい。
 やがて、夫婦の寝床に来るようになった。フロント業務に追われる修子さんのそばを離れないほどなついていた。ムササビだから「ムーちゃん」と名づけた。
 ムササビは好奇心が強い。軒下と露天風呂の古木に巣箱をつくり様子を見た。クルミが好物で自分で見つけて食べているのがわかった。ほぼ1年ごとに子供が生まれた。斎藤さんによると、現在のムーちゃんは、15代目。歴代、親は子にエサのとり方や蓄え方をしっかり伝えており、安定した縄張りがあり居心地がいいらしい。
 いつしか、宿泊客が、ムーちゃんへの思いや感想をノートに書くようになった。その「むささび日記」は今、22冊になる。
    ◇
 《満月の夜、つかっていた露天風呂に座布団みたいのが飛んできた。また2人で来られたらいいな》
 《主人と結婚して24年。新婚旅行もしなかったので、この旅行が私たちの新婚旅行。最高の思い出。主人はムササビの顔を見たようで》
 《子供を連れての初めての旅行。夜泣きもなく寝てくれたので、パパもママも助かりましたよ。あんよができたらまた来ようね》
 《秋、平日にひとりで来ました。気持ちよかったです。本当に静か。むささび君はそのうち。息子よ、安らかに》
    ◇
 ムーちゃんが大好きで毎年訪れている山梨県南アルプス市の清水八重子さん(75)は、8年前に脳梗塞(・こう・そく)になった。
 「主人と2人静養にくるようになり、この湯のおかげで回復している。ムーちゃんが顔を出すとかわいくて病気のことも忘れてしまう」

http://mytown.asahi.com/nagano/news.php?k_id=21000000703100004