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2007年03月10日(土) 00時00分

違法取水 重いツケ朝日新聞

 ◆水不足の時津町を歩く◆

 時津町が深刻な水不足に悩まされている。昨夏、長崎市の西海川から許可量を大幅に超える取水を続けていたことが発覚し、取水量を減らした結果、町内の2カ所のダムの貯水量が激減したためだ。町は1月から13年ぶりの給水制限を始めたが、新たな水源を確保する見通しは立っていない。水不足にあえぐ町の暮らしを見た。(河村能宏)

  ・福祉施設 大浴場「無期限休止」
  ・ダム 貯水率43%「異常事態」

 「当分の間お風呂の使用を中止させていただきます」。町総合福祉センターの大浴場に、こんな張り紙がはられていた。
 大浴場は60歳以上の町民向け。入浴料は無料で、00年の開設以来、1日100人前後が通っていた。しかし、今年1月、町が公共施設の節水に乗り出し、無期限の休止が決まったという。
 ほぼ毎日通っていたという浜元美さん(81)は元気がなかった。「友達とおしゃべりできる貴重な場だったのに……」

 各家庭の給水制限も1月から続いている。町内の約7600戸の水道管には、水量を抑える節水器具が取り付けられている。町がそのために投じた予算は約900万円。町全体の水使用量は1割弱削減できるという。
 左底(さそこ)郷地区に暮らす主婦、津屋敏子さん(62)は風呂の残り湯を洗濯や庭の水まきに使うなどの節水を続けている。「一つの蛇口をひねれば、別の蛇口が使えなくなる。不便になった」

 同町の山あい、久留里地区にある「久留里ダム」は、いつもなら水没しているはずの岩肌がむき出しになっていた。9日現在の有効貯水率は43%。昨夏の半分程度という。
 「魚の姿が消えて、渡り鳥も今年は姿を見せんかった。異常事態だ」。近くに住む鵜木春義さん(85)はそう話す。

 ことの発端は昨年夏、県内1市4町で発覚した河川からの違法取水。時津町では、西海川から1日3千トンの許可量を大幅に上回る5千トン前後の取水を長年にわたって続けていたことが明らかになった。
 10月には県の指導を受けて、西海川からの取水を約2千トン削減した。町全体で1日に使われる水の2割以上に相当する量だった。追い打ちをかけたのが、この冬の少雨。町内の二つのダムの有効貯水率は4割前後に急落した。

 時津町は長崎市のベッドタウンとして人口が急増。現在は約3万人で、30年前からほぼ倍増した。しかし、その一方で新たな水源を確保することなく、20年以上にわたって河川からの違法取水に頼ってきたツケが回ってきた格好だ。

 町は県との協議を重ね、長崎市琴海町にある砂防ダムから1日に最大約2千トンを暫定的に取水する許可を取り付けた。だが、恒久的な水源確保の見通しは全く立っていない。町の担当者はこう話す。「いまは、現状の水不足への対応で精いっぱいだ」

http://mytown.asahi.com/nagasaki/news.php?k_id=43000000703100003