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2007年03月09日(金) 00時00分

最先端アート、引っ張りだこ 老舗百貨店など動く朝日新聞

 欧米と比べ「現代美術の市場がない」といわれてきた日本に、変化の兆しが現れている。老舗(しにせ)百貨店が、現代美術や写真に特化したギャラリーをオープン。全国最大規模の美術商団体も、年に1度開く展覧会に現代美術家を呼ぶ。これまで一部の画廊しか扱ってこなかった最先端のアートが、なぜか、引っ張りだこだ。

◆従来型「スター」不在、間口広げる

 東京・日本橋高島屋6階。高級感あふれる美術画廊の一画に1日、現代美術や写真を専門に扱うギャラリー「X」がオープンした。広さは約110平方メートル、さびた鉄のようなセラミックタイルの床が、ふかふかのじゅうたんが敷かれた横の画廊と好対照だ。

 こけら落としの展覧会では、オノデラユキ、楢橋朝子、畠山直哉、松江泰治、米田知子の5人の写真展を開催中(20日まで)。いずれも40代で、値段は1作品15万円超から84万円。今後も、現代美術家の絵画展などを開く予定だ。

 高島屋が現代美術を扱うのは初めてではない。同じ6階に92年、「コンテンポラリーアートスペース」を設けたことがあるが、立体や仮設展示が中心で作品はあまり売れず、4年余りで幕を下ろした。

 しかし近年、海外のオークションで、村上隆や奈良美智の作品が高額落札され、顧客の中にも現代美術に関心を示す人が増え始めているという。

 「『X』には未知数の意味がある。採算は難しいかもしれないが、美術部が100周年を迎えるにあたり、今後の布石として再挑戦することにした」と高島屋本社美術部の中澤一雄・美術担当部長は語る。

 百貨店だけではない。東京、大阪、名古屋、京都、金沢の美術商でつくる「五都美術商連合会」でも、4月から各地に巡回する「伝統からの創造 21世紀展」の日本画部門で、これまで縁のなかった現代美術の作品を扱うことにした。会田誠、天明屋尚、松井冬子、町田久美、山口晃の5人。30〜40代の作家たちだ。

 首輪をつけた裸の美少女などを描く会田や、宇宙人のような子どもなどを描く町田ら、5人とも伝統的な日本画とは異質な存在。最後には入札による売買もある。横井彬・東京美術商協同組合副理事長は「1世紀の伝統がある五都の画商が扱う以上、きちんとした相場を作り、流通させたい」と意気込む。国内最大手の「シンワアートオークション」も昨年12月、日本の現代美術を中心にしたオークションを開いた。

 関係者が共通して語るのが従来型のスターの不在だ。バブルの崩壊以降、絵画の値段は暴落。今も厳しい状態が続くが、院展や日展を始めとする公募団体から、次世代を担う作家が出にくくなっているという。「客層も年々高齢化している。若い作家を紹介、育てることで、新たな客層を生み出したい」と横井さん。

 これまで現代美術を積極的に扱ってきた画廊は新たなライバルをどう見るのか。写真を中心とした画廊ツァイト・フォト・サロンの石原悦郎さんは「売れるかどうかは分からないが、老舗の百貨店で写真が扱われるのは歓迎すべきこと」と語る。一方で、町田らを扱う西村画廊の西村建治さんは「間口を広げなければ活路を見いだせないという切実さはよく分かる。だが、高島屋の展覧会を見ても独自のまなざしが感じられなかった。もっと話題を集めるような仕掛けが必要では」と話している。

 現代美術や写真を扱うノウハウがほとんどない百貨店や美術商が、富裕層の財布のひもを解くことができるのか。真価が問われるのはこれからだ。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200703090265.html