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2007年03月09日(金) 23時15分

耐震診断、実際の揺れで 慶大教授ら朝日新聞

 実際の地震による揺れで建物の耐震健全性を診断するシステムを慶応大の三田彰教授(システムデザイン工学)らが開発した。小型のインテリジェントセンサーを設置して観測し、どこが弱いかを自動的に分析する。5年、10年と長くデータを集めれば劣化ぶりがわかる。サーバー一つに千個のセンサーを接続でき、地区の構造物を丸ごと診断するのも可能。4月から同大の一部校舎や東京都内のビルで実証試験を始める。設計事務所やゼネコンなどと研究会をつくって研究を重ねる計画だ。

システムのイメージ図

 建物などにセンサーを設置して健全性を調べる手法は「構造ヘルスモニタリング」と呼ばれ、国内では阪神大震災以降、盛んに研究されるようになった。最近は光ファイバーを使う装置などが一部で導入されている。

 しかし建設時に敷設するにしても、既存の建物に導入するにしても、設置工事には多くの時間と費用がかかる。今回のシステムはセンサーを置いてLANなどにつなぐだけで済み、費用も10分の1程度になるという。

 また風やトラックの通過などで常時起きている建物の小さな揺れも解析できる。人が歩くのも検知できるので防犯にも応用できるという。

 センサーは縦10センチ、横5センチ、高さ5センチ。片手で楽に運べる。上下、左右、前後各方向の揺れを測る小型振動計(加速度計)と小型コンピューターを組み込み、揺れを観測して蓄積し、サーバーに自動送信する。この記録はデータベース化されて自動診断される。

 これまで東京都内のビルなど複数の建物で試験観測され、ほとんどのケースで設計の想定と異なる振動が起きていることがわかったという。三田さんは「直ちに問題になるとは限らないが、もっと大きく揺れても本当に問題がないのか、想定通りに制振装置などが働くのか、といったことが実際の建物でほとんど観測されていない」と言う。

 ビルなどの建物は81年以降、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊しないように建てられている。近年は免震構造や制振装置が採用されているが、設計通りに機能するかどうか、建設後に実際の地震を基に解析される例はまずない。

 三田さんは「建物のどこに弱点があるのか、建物がどういうふうに年をとっていくのか。この診断システムで明らかにしたい」と話す。

http://www.asahi.com/national/update/0309/TKY200703090317.html