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2007年03月09日(金) 00時00分

<おふライン> 乗り切れない政府 東京新聞

 東海道・山陽新幹線に七月から導入される「N700系」は、まさに夢の車両だ。時速二七〇キロでカーブを回る性能を持ち、東京−新大阪間をこれまでより五分短い二時間二十五分で結ぶ。さらに画期的なのは喫煙ルームを除き、全席禁煙という点だ。

 三年前の誕生日に禁煙した。一段と太ったが後悔していないし、今や嫌煙家を自任する。先日、携帯電話などから新幹線指定席が予約できる「エクスプレス予約」の会員向け試乗会に応募した。当選すれば一足早くN700系に乗れる。

 JR東日本も今月十八日から東北、秋田両新幹線を全面禁煙にする。公共スペースの禁煙・分煙は今や時代の流れ。ところがこの流れに政府が乗り切れていない。

 政府は昨年末、喫煙率低下の数値目標の設定を検討したが断念した。日本たばこ産業(JT)が反対したことなどが理由という。そのJT株の50%を保有するのは財務省。たばこ税の税収減や葉タバコ農家への影響を懸念する立場では、喫煙率の数値目標設定に賛成できるはずもない。

 JTは世界三位のたばこメーカーだ。昨年末には英ギャラハー・グループを二兆円超で買収することを決めた。国内の喫煙者が減る中、成長には積極的な企業の合併・買収(M&A)が欠かせない。だが株式の50%を財務省に握られていては、活発化が予想される株式交換による企業買収がしづらい。JTは自社株の売却を財務省に求めている。

 それならば今こそ政府はJT株を手放し、ステークホルダー(利害関係者)の立場を離れて国民の健康とたばこ政策に向き合う絶好のタイミングではないのか。

 もしJR東海、西日本の株式を時代に乗り切れない官僚たちが握り続けていたら…。煙がもうもうとした車両がいくつか残る、“N(ニコチン)残留型”700系に乗るはめになっていたかもしれない。
(池井戸聡)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kei/20070309/mng_____kei_____003.shtml