記事登録
2007年03月08日(木) 00時00分

断たれた道再び問う朝日新聞

 西武線・東村山駅西口の再開発が争点として浮上した東村山市長選。「再開発見直し」を掲げて2月中旬に立候補を表明した小倉昌子さん(55)に出馬を打診したのは、本格的に選挙にかかわった経験がない、三島悟さん(58)だった。

 西口で飲食店を営む三島さんは、2月初め、同じ西口でブティックを開く小倉さんを自分の店に呼んだ。「西口を争点に選挙をしたい」。答えを一度保留した小倉さんは、「市長選を『住民投票』として訴えていきましょう」と受け入れた。

 三島さんを突き動かしたのは、再開発計画の是非を問う住民投票条例の制定運動にかかわった経験だった。

 再開発計画では、地権者で作る組合が高さ約97メートルのビルや駅前広場などを整備し、市は総事業費136億円のうち48億円を負担する。多くの市民がこの計画を知ったのは、3年前に内容が固まってからだった。「本当に高層ビルが必要なのか」「となりのトトロの舞台とされるまちに合わないのではないか」。そんな疑問は住民説明会で解けず、市の姿勢は「結論ありき」だと感じた。

 思いを共有する市民が昨年秋、住民投票条例の制定運動を始めた。三島さんも運動を進める代表の1人に名を連ねた。

 必要数を大きく上回る1万7291人の市民が署名した。だが、細渕一男市長は制定に反対する意見書を添え、提案を受けた市議会は昨年12月、条例案を否決した。

 三島さんは、長良川河口堰(ぜき)など環境を考える市民運動を続け、地元では「北川かっぱの会」の代表として自然保護運動に取り組む。「市緑の基本計画」が市民参加で策定されるなど、市とのパートナーシップを作り上げてきたと自負していた。

 「それが、西口再開発を巡って、今までの積み重ねを見事なまでに壊された」

 住民投票の道は市長と議会によって断たれたが、その市長と議員を選ぶ選挙が4月に迫っていた。

 「市長選で再び民意を問うしかない」。運動を進めてきた市民は1月27日、「市長をつくる会」の結成集会を開き、三島さんが代表に就任した。「うねりとなって市内に広がった思いを、このまま終わらせるわけにはいかない。誰かがやらなければならなかった」と三島さんは話す。

 ともに住民投票を目指した側から、元共産都議の小松恭子さん(66)が出馬を表明していた。だが、「政党色のある候補では支持を広げられない」。前回市長選でも再開発見直しを訴えて戦った小倉さんに思いを託した。

 今期限りで引退する細渕市長の「後継」として、渡部尚さん(45)が立候補を表明。事業を継承する立場だ。三島さんは住民投票を求めた声を一本化させたいと、小松さん側へ合流を呼びかけ続けるという。

 選挙運動を前に、三島さんは「市民が市長をつくる会 代表」という名刺を作った。

 「市政を変える千載一遇のチャンス。住民投票運動のときのように、市民も政党も混ざり合った運動にしたい」と話す。

 三鷹市では、東京外郭環状道路(外環道)計画受け入れの是非を問う住民投票条例請求運動が起きた。

 昨年12月に反対派住民グループが請求手続きを開始。2月9日に提出した署名は、必要数を大きく上回る1万人分以上が「有効」と見なされている。条例案は28日の市議会本会議で審議される見込み。だが、可決は厳しい情勢だ。

 三鷹市でも4月に市長・市議選がある。だが、運動を進める団体の代表責任者、豊田詠史さん(66)は「『外環道への賛否を超えて住民投票に賛同を』と訴えてきた以上、この会がそのまま計画反対の立場で選挙にかかわることはできない」と話す。「今はとにかく可決に向けて全力を尽くす」という。
(大隈崇、比留間直和)

    ◇

 4月の統一地方選で、都内22市区町村長、47市区町村議の選挙がある。有権者にとっては一番身近な選挙だ。自分たちにかかわる問題に様々な形で意見を言い、自らの「民意」を示してきた人たちは、その選挙にどんな思いを託し、どう行動しようとしているのだろうか。

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000703080001