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2007年03月08日(木) 00時00分

急速に拡大、スポット派遣 東京新聞

 携帯電話や電子メールで日払いの仕事の人を集める「スポット派遣」が広がっている。一般的に賃金が低く生活が不安定なため、ネットカフェやマンガ喫茶で寝泊まりしながら働き続けている人もいるという。働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」の象徴ともいわれるスポット派遣の実情を探った。 (酒井ゆり)

 「倉庫作業。午前九時から午後六時まで。午前七時二十分までに集合のこと。場所は…」

 東京在住の関根秀一郎さん(42)は昨年、登録していた派遣会社から、こんな内容のメールを受け取った。

 当日、指定された作業現場に向かうと、荷物の上げ降ろしの仕事をするように指示された。かなりの重労働で、作業員の中には、疲れ果てて昼休みのわずかな時間も惜しんで横になる人もいた。仕事から解放されたのは午後七時十分。手にした給料は六千五百円だった。

 関根さんの本職は、派遣労働者らを支援する東京都のNPO法人「派遣労働ネットワーク」事務局次長。スポット派遣の実態を調べるために昨年、自ら現場を体験したのだ。

 「集合から解散するまでの時間で計算すると、時給六百円以下。交通費も出ていない。スポット派遣の場合は、その後いつ仕事が入るかも分からない。これでは、安心して生活ができません」

 このほかにもスポット派遣で二回働いてみたが、いずれも労働環境は悪く、「派遣労働が禁止されている建設作業もあった」と話す。

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 スポット派遣は、軽作業や肉体労働など派遣業種が原則自由化された労働者派遣法改正(一九九九年)以降、急速に拡大している。ある大手スポット派遣会社では、登録者数が延べ二百万人を超す。

 一般的な仕組みとしては、まず派遣会社に働きたい日を予約する。その前日の夕方ごろ、電話で仕事の有無を問い合わせる。仕事があれば、その内容や時間、集合場所などが書かれたメールが後から送られてくる。

 「日給はだいたい六千円前後。一カ月でも十二、三万円にしかならないのが現状」と関根さん。雇用保険にも加入していないケースが大半で、派遣会社が「データ装備費」「業務管理費」などの名目で、二百円から三百円を差し引いている例もあるという。「アパートの家賃が払えず、ネットカフェやマンガ喫茶で寝泊まりしながら働く人もいる」と話す。

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 今月一日に都内で開かれた派遣労働者の権利向上を訴える「派遣春闘」でも、スポット派遣が最大のテーマとなった。

 労働側から参加した派遣ネットワークの中野麻美弁護士は「スポット派遣の問題で、まず一歩踏み出してほしいのが、年次有給休暇。法律では一定条件を満たしていれば認められるが、いつ仕事が入るかどうか分からない状況では、権利を行使できない」と指摘した。

 これに対し、雇用側から参加した派遣会社の業界団体「日本人材派遣協会」の大原博副理事長は「派遣会社は人材の確保に苦労している。仕事の内容とともに福利厚生の面も魅力あるものにしないと定着しない。スポット派遣についても、法律に従った形を取るのが大前提だが、最終的には各社が判断すること」と説明。同協会の日比野三吉彦会長は「短期的、断続的な働き方を好む人もいる。多様化する雇用形態に応じたサポートをしていく必要がある」と付け加えた。

 約百六十万人が登録する「フルキャストグループ」(東京)では、有給休暇や雇用保険の適用などを約束した労使協定がこのほど成立。一回二百五十円の「業務管理費」も既に廃止している。

 関根さんはこうした流れを評価しつつ「会社単位ではなく業界全体で方策を考えてほしい。でなければ、不安定雇用はさらに広がるだろう」と強調した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070308/ftu_____kur_____001.shtml