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2007年03月08日(木) 00時00分

米朝作業部会が閉幕 思惑含み“円満”演出 東京新聞

 「北朝鮮は非核化の先まで考えて作業部会に臨んでいる。非常に喜ばしい」。六カ国協議の米首席代表、ヒル国務次官補は、作業部会終了後の会見で、北朝鮮の態度の「変化」を評価した。

 初会合に対し、米側には作業部会の枠組みを絶対に崩さず、円満に終えるというスタンスが明確に見えた。

 北朝鮮・寧辺(ニョンビョン)の核施設の停止・封印など、二月の六カ国協議の合意は内容にあいまいな部分が残り、米国内で強硬派の批判もあるが、ブッシュ政権にとっては久々の外交的な「成果」。米朝の関係正常化問題がテーマとはいえ、作業部会がこう着状態に陥れば、北朝鮮はこれを理由に六カ国協議の合意を白紙に戻しかねない危険性は十分にある。米側としては、その事態だけは避けなければならなかった。

 ヒル次官補は六日の講演の中で作業部会について「ただちに成果が出るとは期待していない」と指摘。裏を返せば、対立が強まるような議論は極力控え、気長に続けていく戦術もにじむ。

 ただ、米側としてはこの機会に詰めておくべき課題もあった。それが、北朝鮮に対し六カ国協議で合意した「核計画の申告」とは、プルトニウム計画だけではなく、ウラン濃縮計画も含む点を明確にすることだった。

 ここがあいまいだと、核の完全放棄にはつながらず、合意自体が無意味になるため、クギを刺しておく必要があった。日本人拉致問題を含む日朝正常化の必要性を北朝鮮に呼び掛けたのも、この問題を今後の火種にしない狙いからだろう。

 米朝の関係正常化の作業部会といっても、米側には「虎の子」の合意の実現に向けた“装置”との位置付けを強めた初会合となった。(ニューヨーク・小栗康之)

 六日午後のヒル米国務次官補との昼食会後、中華レストランを出てきた北朝鮮の金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官は記者団に満足げに語った。

 「(米朝作業部会の)結果を見守りましょう。今、すべてを話したら面白くないでしょう」

 二日目の協議も前日に続き、食事会も含めてわずか四時間ほどで終了。具体的な進展がなかったにもかかわらず、金次官が「建設的で真摯(しんし)だった」と述べた背景には、米国との持続的な対話の道筋を確保したことへの手応えがある。

 国交正常化に向けた米朝の公式対話は、米クリントン政権末期の一九九九年から翌年にかけ、ニューヨークやベルリンで開催。当時も金次官が北朝鮮側首席代表を務め、米国による「テロ支援国」指定の解除問題などで協議したが、ブッシュ政権誕生で途切れていた。

 米国の軍事的脅威を取り除き、経済制裁などの早期解除を目指す北朝鮮。「クモの巣のように張りめぐらされた制裁の網」(外交専門家)から一刻も早く抜け出すには、米国との直接対話が避けて通れない道だった。

 五日の非政府組織(NGO)主催の非公式セミナーでも、金次官は米政府当局者らを前に「今後も米国と対話を続けていくことが重要だ」と述べ、外交交渉を通じた関係正常化に意欲を示した。

 先の南北閣僚級会談では韓国との関係を修復。米国とも高濃縮ウラン問題の協議開催で一致するなど、柔軟な姿勢を見せた。これに対し韓国外交安保研究院の金聖翰(キム・ソンハン)教授は「日本を圧迫する目的が大きい」と指摘する。

 北朝鮮が米韓との円満ムードを演出した裏には、ひとり制裁解除やエネルギー支援に消極的な日本への、けん制を込めた計算もあるようだ。(ニューヨーク・中村清)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070308/mng_____kakushin000.shtml