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2007年03月05日(月) 00時00分

秩父最古「さくら湯」消える昭和朝日新聞

◇昭和8年から営業の銭湯 昨年末廃業 近く取り壊し

 1933(昭和8)年から秩父市桜木町で営業、市内で最古だった銭湯「さくら湯」が廃業し、間もなく取り壊されることになった。減り続ける客足に、道路拡幅計画が重なった。木造平屋の建物の中には、経営者の富樫博さん(69)手描きのペンキ絵やタイル絵、番台などの「昭和」が詰まったままだ。かつて7、8軒あった市内の銭湯は2軒になった。

 富樫さんの妻、礼子さん(63)によると、さくら湯は富樫さんの父重太郎さん(故人)が、営業中の銭湯を譲り受け、改修して開業した。建物は大正年間の建築らしい。

 入り口側の国道の拡幅で、店を引っ込める計画が舞い込み、夫婦で思案の末、昨年暮れに廃業した。「拡幅に協力したいが、移築は費用がかかる。それにお客も少なくなって……」

 1日100人以上の客があった時期もあるが、ここ数年は4分の1に減っていた。「残念無念だが、定年退職になったとでも考えるか」。富樫さんは廃業について、礼子さんにこう話した。2人の娘は独立している。

 浴場壁面の富士山の絵は、油絵の趣味がある富樫さんが描いた。下段に居酒屋や自転車店などの広告が並ぶ。これも富樫さんの手書きだ。仕切りの壁は、創業以来という細かいタイル絵で飾られている。

 脱衣場の壁に富樫さんの油絵が何点もある。庭の池には体長40センチ前後の錦ゴイが群れる。2センチほどの稚魚が育った。

 礼子さんは「忙しいころは、番台に座ったり、降りたりしながら、何人もの赤ちゃんの面倒をみた」。その赤ちゃんたちは成人し、「おばさん、終わっちゃうの」と訪ねて来ることもある。

 脱衣場の壁に、礼子さんが何年も前に掲げた詩人の田村隆一の言葉があった。「銭湯すたれば人情もすたる……」

 県生活衛生課によると、県内の銭湯は70年の379軒がピークで、現在は107軒という。

http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000000703050002