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2007年03月05日(月) 01時24分

3月5日付・読売社説(1)読売新聞

 [最賃法改正案]「生活保護費より低額でいいのか」

 政府は最低賃金法の改正案を今国会に提出する。

 パート労働の処遇改善を目指すパートタイム労働法改正案とともに、政府が格差是正のための重要施策と位置づける法案である。民主党も時給1000円を目標に引き上げる改正案をまとめている。

 最賃制度を、一定の生活を支える安全網としてどう機能させるか。非正社員が増加し、「働く貧困層」という言葉も生まれている。望ましい制度となるよう、国会でも論議を深めてほしい。

 政府案の最大の改正点は、地域別最低賃金を決める際の判断要素として、新たに生活保護費を加えることだ。地域別最賃に違反した雇用主に対する罰金も、従業員1人当たり最高2万円から最高50万円に引き上げる。

 地域別最賃は、都道府県ごとに決められ、1人でも雇用している事業主に適用される。2006年度の最賃は、最も高い東京都は時給719円、最低の青森県や沖縄県などは同610円で、全国の加重平均は673円となっている。

 これは高卒初任給やパート賃金の7割強の水準だ。1日8時間労働・週休2日で、税や社会保険料を引いた月の手取り額は10万3760円となる。この額の妥当性については、持ち家の有無や世帯主かどうかで見方は異なるだろう。

 しかし、住宅扶助の特別基準額を含めた生活保護費と比較すると、どの都道府県でも最賃の方が低い。これでは勤労意欲を失わせ、社会全体のモラルを低下させる恐れもある。

 地域別最賃は公労使の三者で構成する都道府県の審議会が決める。厚労省案は生活保護費も考慮するように求めるだけで、最賃の方を高くするよう義務づけるものではない。だが、生活保護費を上回るようにする圧力にはなるだろう。

 最賃制度は、現実問題として産業界が受け入れてこそ成り立つ。民主党案の1000円は理想論すぎないか。

 審議会に対しては、経営が深刻な一部の零細事業主の事情だけを考慮し、1円や2円の引き上げをめぐる不毛の議論に終始しているという批判がある。

 企業調査によると、地域別最賃を最も重視してパートの賃金を決めている事業主もいる。最賃制度が相場の引き下げ役にもなっているわけだ。最賃とは別に、公益委員が望ましい金額を公表する仕組みも検討されていいのではないか。

 最賃には、地域別より高い水準に設定されている産業別最賃制度もあるが、経営側は「地域別に屋上屋を架すようなものだ」として廃止を求めている。簡明な制度としていくことも大切だ。

 

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070304ig90.htm