同ビルは1964(昭和39)年、地上9階・地下5階のオフィスビルとして完成した。通りを挟んだ西隣の「阪急百貨店」では05年夏に建て替え工事が始まり、近くのJR大阪駅北側でも新北ビルが建設されるなど、周辺は再開発が進んでいる。
訴状などによると、富国生命側は05年7月、ビルテナント78社に対して建て替え計画に基づく賃貸契約の解除を通告し、昨年1月までの立ち退きを要請。ビルのオープン時から入居している化粧品販売店や喫茶店など1階と地階の計9店が拒否したため、昨年4月に立ち退きを求める訴訟を大阪地裁に起こした。
富国生命側は建て替え理由について、阪神大震災後に施行された「耐震改修促進法」に基づいて数年前に耐震診断した結果、構造耐震指標(Is)の数値が基準値の0.6を下回る0.31〜0.5だったと指摘。「地震で倒壊の危険があり、建て替えのために立ち退きを求めるのは賃貸契約上の『正当な事由』にあたる」と主張している。
これに対し9店側は、同法は改修工事を進めることを主な目的としており、唐突に建て替えを決めて立ち退きを求めるのは立法趣旨に反すると反論。「富国生命は少ない費用でできる改修工事で済ませる努力を放棄しており、正当な事由にあたらない」としている。
9店を除くテナントの大半は別のビルなどに移転しているが、建て替え工事が始まるめどは立っていない。9店側は今後、改修工事に切り替えた場合にかかる費用などの鑑定や、店舗の必要性を訴える店主らの尋問を地裁に求めることを検討しており、訴訟が長期化する可能性がある。
9店側代理人の石川元也弁護士は「耐震問題について誠実な事前説明や交渉はなく、いきなりの訴訟だった。新ビルへの再入居の保証もなく、富国生命は耐震というより開発による経済的利益を考えているのではないか」と話す。
富国生命総務部の話 訴訟中であり、コメントは差し控える。