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2007年03月03日(土) 00時00分

銭湯、背水の陣 50円値上げへ朝日新聞

 ◇利用者減、燃料費高騰も 15日から

 県内の銭湯(一般公衆浴場)の入湯料の上限額が15日から50円引き上げられ、350円になる。ほとんどの銭湯が9年ぶりの値上げに踏み切る見通しだ。スーパー銭湯
の登場で利用者が減少するなか、燃料費の高騰で経営は苦しくなる一方。地域の憩いの場を守り続けてきた銭湯主にとっては苦渋の決断だ。
(仲村和代)
 長崎市上野町の「徳の湯」。のれんをくぐると、番台に座る浜田スミ子さん(70)が、常連客と井戸端会議に花を咲かせていた。
 木製の床やタイル製の湯船、大きな番号の書かれた木箱のロッカー。どれも開業した50年前のままで、ピカピカに磨き上げられている。
 入浴中の近所の女性(75)は「ここに来ればお風呂も広いし、何よりいろんな人と話ができる」。スミ子さんの気さくな人柄にひかれ、バスを乗り継いで通う人もいる。
 徳の湯は1957年、スミ子さんの夫、清志さん(73)の父親が定年後の商売として始め、4年後に夫婦で後を継いだ。いまの入浴料は大人300円だが、上限額の350円に値上げする予定だ。
 「毎日通ってくれる人がいるのに、値上げは本当に心苦しい。どうせつぶれるんだったらそのままの価格でやりたい」と話すスミ子さんに、常連客が「お風呂は唯一のぜいたく。ここの湯は最高だから、1食抜いたって通うよ」と声をかけた。
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 県によると、県内にはピーク時の71年、266軒の銭湯があったが、89年には75件、98年には48件、現在は31軒と減り続けてきた。

 ◇経営者 常連客・採算…板挟み  

 「利用者が減って、土地が値上がりしたバブル期には、マンションなどに転業した人が多かった。最近はスーパー銭湯や老人施設の無料の風呂もでき、たちうちできなくなった」と清志さんは嘆く。
 徳の湯でも、かつては利用者が1日500人を超すこともあったが、最近は「1日50人くればいい方」。一方で、燃料となる油の価格は、3年前の2倍近くに膨らんだ。1日の売り上げの3分の1以上は燃料費で消えてしまうという。
 清志さんが理事を務める県公衆浴場生活衛生同業組合では、「400円近くに設定しないと経営が持たない」という銭湯主がいる一方、「急に上げると理解が得られない」という意見も出ている。
 県は上限額の引き上げを決めたが、組合は「経営改善への努力も必要」と、2月上旬に親子で来れば無料になる「親子ふれあい湯」を実施。今後も利用客増に向けた取り組みを話し合う予定だ。
 「全くもうからないけど、今でも『やっぱり銭湯』と通ってくれるお客さんがいる。体が動くうちは続けます」と清志さんは話している。

http://mytown.asahi.com/nagasaki/news.php?k_id=43000000703030001