記事登録
2007年03月03日(土) 00時00分

川口園児死傷 論告要旨朝日新聞

 検察側の論告要旨は以下の通り。

第1 事案の概要(略)
第2 情状

 1、被告に不利な事柄
 (1)被告は89年に免許を取得後、無謀で危険な運転を繰り返してきた。スポーツカーで高速で峠道を走ったり、十分に減速せず右左折を開始し、直後にアクセルを踏み込んで急加速したり、地図を見るなど進行方向を確認しないまま走ったりする運転を日常的に行っていた。助手席のヘッドホンステレオのカセットテープを左手で入れ替え、右手だけでハンドル操作をする無謀で危険極まりない行為を、被告の供述だけでも50〜100回ほど繰り返し、塀や歩道に突っ込みそうになった経験が2、3回あった。さらに、道路が渋滞したり、前方の車が赤信号で停車したりしている場合、住宅道路などの脇道を走行する癖があった。また、事故の数カ月前には、カセットテープの入れ替え作業で脇見運転し、前方の車に追突する物損事故を起こしている。被告は、自らの運転技術を過信し、警察官に摘発されなければ無謀で危険な運転を改めなくてよいという意識の下、自動車の運転を続けていた。

 したがって事故の過失は、何らかの偶発的事情に起因して生じたという性質のものではなく、専ら当時まで無謀で危険な運転を繰り返し続けてきた被告人の運転性癖に起因するものであることが明らかである。運転者として交通安全に対する最低限のマナーや心がけをまったく持ち合わせず、自己の運転を過信した上、進路の安全も確認もせず、自分のやりたいようにカセットテープの入れ替えをするなど身勝手かつ利己的で、文字通り傍若無人な運転態度に起因する。

 (2)被害者らは、公園に向かうため、通行車両や道路の安全に十分気を配って歩行するなどしており、落ち度は全く認められない。

 (3)直後の事故現場は、生死をさまよう保育園児、園児を必死に介抱する保育士や近隣住民などが入り乱れ、騒然となっていた。しかし、被告は、車から降りようとしないばかりか、園児らを救うための行動を一切取らなかった。あまりに無責任で非難されるべきだ。

 (4)4人の園児が尊い命を失ったほか17人の園児や保育士が、けがを負った。その中には重傷者や、将来、後遺症の発症が懸念される者も含まれる。これだけ多数の死傷者を出した前例は見あたらず、自動車による事故としてはいまだかつてないほどの大事故である。

 (5)第2回公判の意見陳述の通り、遺族らは被告に対して激烈な感情を抱いていることは、量刑上、最大限に考慮されなければならない。

 (6)被告は捜査段階で自己の記憶より低い速度を供述し、公判廷では他人事であるかのようなひょうひょうとした態度で、時折、失笑するかのようなそぶりを見せた。また、刑務所生活に備えて自己の蓄えを使おうとせず、弁護士から助言されるまま形だけの謝罪文を送るのみで、遺族や被害者家族に対し何ら謝罪の意を表していない。被告が心から悔恨しているとは到底思えない。

 (7)一般市民が穏やかで幸せに暮らしている住宅街を通る生活道路で、多数の死傷者が出た悲惨極まりない結果が社会に衝撃を与え、国民の社会的関心を集めた。しかも遺族らによる署名活動では、わずか3カ月足らずの短期間のうちに、18万名を超える署名が集まり、さいたま地検と法務省に提出された。加えて、危険運転致死傷罪と業務上過失致死罪との間の適用要件や法定刑の差が大きいことなどから、両罪の中間に位置すべき新しい構成要件の犯罪類型の立法化の動きが政府内である。被告の行為が極めて反社会性の高い行為であることを交通社会に周知させ、二度と本件のような悲惨な事故が生じないようにするためにも、被告を厳罰に処すべき必要性が高い。

 2、被告にとって有利となり得る事柄

 被告は、法定速度の時速60キロメートル以下の時速50〜55キロメートルで走行していたが、道路の状況などから、安全運転ができない速度であることは明らかである。被告の家族が遺族らに謝罪しているものの、被告が発案したというよりは弁護士や家族の考えで実行した側面が強く、被告の反省の気持ちを裏付けるものではない。

 3、まとめ

 執行猶予からわずか7カ月後で、執行猶予中の重大事故である。今後も自動車を運転することを口にするなど、被告人の再犯のおそれが極めて高い。また、被告が一応本件を認め反省の言葉を述べていることなどを考慮しても、本件は自動車による交通事故の中でも、最も重大な事案であると考えられる。

 従って、適用される事案の大半が自動車による交通事故である業務上過失致死傷罪が想定する事案としては、本件は最も悪質で重大な累計に該当し、最も重い刑罰を言い渡すことが正義にかなうものと考える。

 従って、検察官としては、被告に対し業務上過失致死傷罪の最高刑以外の科刑はあり得ないものと思料する。

 第3、求刑(略)

 ◇  ◇  ◇

 被告側の弁論要旨は以下の通り。

 第1 事故時の走行速度

 被告は初公判で「時速60〜65キロメートルくらい」と供述したが、県警の鑑定結果などから、公判廷の供述内容は客観的で合理的な根拠に乏しく「時速50〜55キロメートル」と考えるのが素直だ。

 第2 過失犯の量刑判断

 過失の程度や内容を低く見ることで寛大な刑を言い渡した裁判例がある一方で、甚大な被害を生じさせた交通事故について、重い量刑判断をした例もある。

 第3 過失の内容、程度

 前方不注視や安全運転義務は極めて基本的な注意義務であることは言うまでもないが、重大な結果の発生を予想することを被告に求めるのは酷と言わざるを得ない。

 第4 考慮すべき事情

 被告は、事故について反省、悔悟の言葉を公判で述べ、遺族や被害者に謝罪の手紙を送っている。被告の家族も、謝罪の手紙を送り、自宅に謝罪に行っている。

 第5 まとめ

 第2回公判後、被告は法廷の床に両ひざ両手をつき、傍聴席に頭を垂れたのは、今の心境を端的に示している。事故を起こしたくて起こしたものではなく、不注意で事故を起こした。現在38歳の被告にとって、長い罪滅ぼしの生活が続き、刑事裁判は一つの区切りでしかない。的確な量刑判断がなされるべきである。

http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000000703030002