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2007年03月03日(土) 00時00分

規制緩和のマカオ 世界一に 東京新聞

 中国の特別行政区、マカオのカジノ産業の売上高が昨年、約五百五十八億パタカ(約八千三百七十億円)に達し、米国ラスベガスを抜いて「世界一」になった。一九九九年、ポルトガルから中国に返還されて以来、大陸からマカオへの観光客は激増し好況を支える。半面、現地でカジノへの就職が極端に集中するなど、弊害も指摘され始めた。 (マカオで、豊田雄二郎)

 元小学校教諭の女性(30)は今月、カジノに転職した。理由は、給与がけた外れに高かったからだ。月給は約六千パタカ(約九万円)から一気に三倍に。「教員時代のようなプレッシャーもないし、これだけ給料に差があると、やっていられない」と打ち明ける。

 米国で情報技術(IT)を学んだ男性(27)は二カ月前、留学先からマカオに戻った。故郷の盛況ぶりを聞き、やはりカジノの高給にひかれた。月給約二万パタカ(約三十万円)は「文句なし」。IT部門の責任者だ。

 マカオの就職現場は今、空前の売り手市場に沸く。現地人の雇用を守るため、カジノの一部上級職から出稼ぎ労働者を締め出していることも、カジノへの就職熱に拍車をかける。だが「カジノ産業の平均給与が年二割の勢いで上がっているせいで、カジノ以外の産業に人材が集まらなくなってきた」。地域住民組織、マカオ街坊会連合総会の梁慶庭会長が嘆く。

 歳入の八割近くをカジノ産業からの税収に頼るマカオ政府は、潤った財政力を背景に、幼稚園から高校までの教育の無償化の年内導入を決めた。ところが、皮肉なことに、中学を卒業してすぐ約一万五千パタカ(約二十二万五千円)もの月給をもらえるカジノに就職を望む若者が急増。進学率の低下や教諭、医師、弁護士、警察官などを目指す人材の不足も懸念されるほどの、いびつな「カジノ人気」だ。

 マカオのカジノが急成長を遂げたのは、それまでの一社独占を規制緩和した二〇〇二年から。米国や香港の企業も参入し、カジノは現在二十四カ所。さらに五カ所で建設が進む。

 地元の大学教授は「米国式経営の怖さが分かっていない」とクギを刺す。「今は各社とも投資し、市場占有率争いの真っ最中。競争が一息つく来年か再来年ごろから投資の回収が始まれば、従業員は簡単に首を切られる」との見方だ。

 公務員の男性(29)は週に二、三回、広東省側へ買い物に出掛ける。バイクでほんの二十分走れば、洋服や靴、DVDなどをマカオの半値で買えるという。「マカオの物価はどんどん高くなっている。不動産価格もこの三年で五割は上がった。いくら経済が絶好調でも市民に恩恵はない」と、いらだちを口にした。

 一方、カジノはマネーロンダリング(資金洗浄)の舞台としても悪用される。最近は、大陸の中国共産党幹部らが公金を着服してカジノに入り浸り、摘発される事件が度々報じられた。

 北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男、金正男(キム・ジョンナム)氏とみられる男性は、地元で有名人だ。大手カジノの店員によると、この男性は今年に入り現地にマンションを購入、同店にも二度姿を見せた。いつも朝鮮系の男性数人で貴賓室に入り、一回の勝負に百万パタカ(約千五百万円)を投じるという。

 マカオに進出した数少ない外資系メーカーの一つ、日東紡(本部東京)現地法人の澤野裕之社長は「街並みが世界遺産に登録されたように従来は落ち着いた街。最近はちょっと浮かれすぎている。観光地として健全に発展していってほしい」と注文を付けた。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070303/mng_____kakushin000.shtml