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2007年03月02日(金) 00時00分

責任認め…開き直りも 捏造問題 東京新聞

 情報番組「発掘!あるある大事典2」の捏造(ねつぞう)問題で、関西テレビが二月二十八日に総務省へ提出した再調査報告書は、三週間前の最初の報告書と一転、局の責任を全面的に認める内容となった。新たに三件の捏造の疑いを公表した一方で、報道で捏造を指摘された放送回の大部分については、引き続き正当性を主張。さらに「バラエティー番組」「治験の厳格さを求められるものではない」と、“開き直り”ととれる記述も見られる。再調査報告書を検証した。 (鈴木泰彦、安田信博)

 【責任の所在】再報告書では、番組制作の責任の所在について明確に記した。「納豆ダイエット」の捏造について、前回報告書では、制作会社「アジト」のディレクターの単独行為として「巧妙に構成・表現したVTRは、虚偽を見抜くことが極めて難しい」など、関テレの責任に言及しないばかりか、むしろ被害者の側面を強調するかのような表現だった。今回は「放送に携わるものとしての意識の緩み」「多層的なチェック機能の不備」などに起因すると分析。「事実とは異なる内容の放送の最終的な責任は弊社にある」と一転して自らの責任を認め、「業務執行に関する最終的な経営責任は社長にある」と記した。「経営責任が明確でない」と不快感をあらわにした菅義偉総務相に“全面降伏”した格好だ。

 【番組への認識】「あるある」は教養番組であると同時に、家庭に娯楽を届けるバラエティー番組でもあると位置づけた。薬物のように副作用がある素材や、健康食品など多量摂取で危険性が生じるものを原則として取り上げていないことなどを理由に、視聴者に興味をもって見てもらうため「よって立つ科学的論拠や専門家の理論は新規のものでも採用」「番組内の実験も、治験としての厳格さを求めない」などと記している。こうした“ハードルの低さ”が、制作サイドで「しょせんはバラエティーだから…」などという気の緩みにつながった可能性は否定できない。

 【その他】前回の報告書で同局は「納豆ダイエット」の回で捏造を招いた一因として、関テレや元請け制作会社の日本テレワークのチェック態勢が「年末年始の単発番組制作が集中し、他の番組業務に忙殺され、手薄になっていた」と説明していた。しかし今回、捏造の疑いを認めた三回分はいずれも時期が異なっており、恒常的にチェックが甘かった側面を浮き彫りにした形となっている。

 五百二十本に及ぶ「あるある」の全放送回のうち、現在までに同局が捏造もしくは捏造の疑いを認めたのは「納豆ダイエット」を含め計四回。ただ報告書には「このほかにも不自然さや疑問点のある放送回がいくつか存在している」と記しており、さらに増える可能性は否定していない。

■事後対応も反省

 「これまで報告書の内容を明らかにするように求めても応じなかったのに、今回はすべてを明らかにしたうえ、会見も開く。対応が変わったのはなぜか」

 二十八日夜、関テレの「なんでもアリーナ」で行われた会見では、報道陣からこんな質問も出た。

 千草宗一郎社長は「言い訳になるが、その段階で調査内容がまだ不十分という認識があり、外部委員会の精査を待って総括的にご説明すべきと判断していた」と釈明。「総務省が再調査を命じなければ会見もなかったのでは」と突っ込まれ、「対応の不十分さについては反省している」と謝罪の言葉を重ねた。

 「誰のために、何のために番組をつくっていたのか。本当に視聴者が見えていたのか」と漏らした千草社長。「数字(視聴率)の向こうの視聴者の姿を、もっと真剣に考えてやっていかないといけない」と硬い表情で語り、一時間二十分に及んだ会見を締めくくった。

■疑わしい事例はほかにも存在? 調査委におわせる

 「あるある」の捏造問題で、外部の有識者五人で構成する「調査委員会」(委員長=熊崎勝彦・元東京地検特捜部長)の第五回会合が一日、都内で開かれた。

 この日は、関テレが前日に総務省に出した再調査報告書などを基に協議。熊崎委員長は会合後、資料の検証やヒアリングを含めた集中審議を二日から、八−九日間実施することを明かした。再報告で捏造の疑いがあると追加した三件について「委員会が調査中の“好ましくない事例”の中に入っているものもある」とし、それ以外にも疑わしい事例の存在をにおわせた。

 調査のため渡米中の作家の吉岡忍委員は欠席。熊崎委員長は「頑張ってはいるが、予定通りにはなかなか進まない面がある」と、外国での関係者の聞き取り調査が難航している様子をうかがわせた。

■BPOの権限強化へ 民放連が再発防止策を発表

 日本民間放送連盟(民放連、会長=広瀬道貞・テレビ朝日会長)は一日、「あるある」捏造問題を受け、再発防止に向けた新たな対応を発表。総務省の監督強化を盛り込む放送法改正には「幅広い慎重な議論を期待する」とした。

 民放連会長室によると、会員が放送倫理、民放事業に関して著しく信頼を裏切った場合、「会員活動の停止、制限」の処分が直ちにできるよう定款を改正。これまで「除名」しか処分はなく、今回、関テレが受けた「会員活動の停止」は定款にはない、あくまで理事会で決めた措置だった。

 また、NHKと協議の上、放送界の第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送番組委員会の機能を強化。事実と異なる放送が行われた場合、委員会は再発防止策の策定・提出などを局に求めることができるようにし、局側はこれに従う義務を負い、委員会が公表した事後検証の内容を放送するとした。これに伴い、現在は放送局の編成局長クラスも入っている同委員会の構成を、有識者委員のみとする。

 一方、キー局が中心になってチェック機能を発揮する方策を探る専門部会を新設。キー局の具体的役割について、あらためて検討する。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20070302/mng_____hog_____000.shtml