記事登録
2007年02月28日(水) 00時00分

動機の謎残し幕引き 日興不正会計問題 東京新聞

 日興コーディアルグループは、有村純一前社長ら旧経営陣三人に損害賠償を求め、不正会計問題の責任追及作業に区切りをつけた。一月末に特別調査委員会が示した不正事実をほぼ追認した形だが、動機など解明されていない謎はそのまま残された。問題の深層に光が当たらぬまま、市場の関心は東京証券取引所の判断に移る。日興株は上場廃止か、それとも維持か−。 (経済部・林知孝)

■雄弁

 「新たな不正は発見されなかった」「証拠隠滅ではなかった」

 記者会見で桑島正治社長は、一月末の特別調査委員会の報告で指摘された二つの疑惑に言及。

 疑惑の一つは、子会社間の不正な金融取引が、ほかにもあったのではないかという点。もう一つは、不正の“主犯格”とされる子会社日興プリンシパル・インベストメンツ(NPI)の平野博文前会長の当時のメールが見つからず、証拠隠滅が疑われた点だ。

 桑島社長は、特別調査委では手が回らなかったNPI社員らの聴取も行い、「徹底的に調べた」とし、「訂正報告書には監査法人から無限定適正意見をちょうだいした」と語気を強めた。無限定適正意見。訂正報告書に問題がないことを監査法人が認めた証しという。

■露呈

 だが桑島社長の強気は続かなかった。

 「不正の動機は何だったのか」

 問題の核心を突く問いに対し、桑島社長は「私の意見より第三者の意見の方が妥当」「人の内心のことをとやかく言えない」と言葉を濁した。

 社内に設置された責任追及委員会に加わった太田洋弁護士も「分からない」。特別調査委は「業績に連動して支払われる報酬が目当てだったのではないか」と指摘しているが、「断定的なことは言えない」(太田弁護士)とした。

 背景には「悪いことはしていません、と言う人に動機を聞いても答えは返ってこない」(木目田裕弁護士)など、不正にかかわった役員や社員の一部が調査に協力せず、非も認めていないという事情がある。

 徹底調査したという平野NPI前会長のメールの行方も、消滅期間こそ特定したが、結局は「サーバー障害で消えた」(桑島社長)と従来の説明を繰り返しただけだった。

 こうした点から、詳細な事実認定が求められる刑事告訴については「証拠上難しい」(木目田弁護士)と判断せざるを得ず、自主調査の限界を露呈した。

■重大

 日興が提出した訂正報告書は今後、東証の審査を受ける。だが監査法人の適正意見が付いた報告書の中身に異議を唱えることはまずなく、不正の動機など残された謎の解明は期待できない。

 焦点は、昨年末から監理ポストに入っている日興株の行方に絞られる。

 東証が訂正内容の「影響」を「重大」と認めれば、日興株は上場廃止となる。だが、東証は「影響」や「重大」を判断するための明確な基準を示していない。

 「重大は、重大だ。数値を示せば、かえって重大の意味を限定することになる」。二十七日の記者会見で「重大」の意味を問われた西室泰三社長は、禅問答のような回答をした。

 過去の事例では、金額や期間といった不正の規模と、それに対する組織的関与、市場への投資家の信頼を損ねた程度などが重視された。これらを前例と比較しながら判断するとみられるが「類似例が少ない」(東証)ことが悩みだという。

 「どちらにせよ、きちんと説明できる判断を下す」(西室社長)。メガ証券株の上場の可否をめぐる前代未聞の“審判”は三月中旬に下される。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070228/mng_____kakushin000.shtml