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2007年02月27日(火) 00時00分

豚肉関税不正、ナ社「安く安定供給のため」朝日新聞

 輸入豚肉をめぐる差額関税約59億6千万円を免れたとして26日、食肉卸売会社「ナリタフーズ」(柏市)と同社社長田辺正明容疑者(60)が起訴された脱税事件。国内産の豚肉保護のため、30年以上前にできた制度は、輸入肉をめぐる状況が変化する中で、問題点も指摘される。会社側は「形骸(けい・がい)化している」と国家賠償訴訟を起こす構え。だが、農林水産省や生産農家側は「国内の生産コストは高く、制度による保護は必要」と真っ向から反論している。

■隠し資産、確認できず

 輸入価格が基準価格を下回った場合、差額分を関税として支払う差額関税制度。基準価格はヒレやロースなどの高級部位を含む豚1頭の値段で決まるため、基準を下回る加工用原料の部位(低級部位)などを安く仕入れれば、逆にそれだけ関税は高くなる。

 「ナリタフーズ」を起訴した千葉地検は、同社がこれを避けるために関連会社を介在させ、輸入金額が基準価格と同じ水準になるように装っていたとみている。

 だが同社側は会見などで、「(差額関税制度では)営業努力をしても同じ価格になってしまう。(関税逃れは)消費者に安く豚肉を安定供給するために考えた方法だ」と主張している。

 地検の捜査でも、同社は実際には基準価格(546円)を下回る320円前後で輸入した豚肉に、1%程度の利益を上乗せしただけで国内市場に出しており、隠し資産は確認できなかったという。

 会社側は今後の裁判で「基準価格より安い価格で納入するよう求めてきたのは大手商社。最終的な(脱税の)利益は商社側にある」として、構造的な問題点も指摘する考えだ。

 差額関税制度には、輸入肉をめぐる状況の変化が色濃く影を落とす。

 同制度は、国内の生産者を保護するために71年にできた。加工原材料が馬や羊から豚に移行する中で、豚の輸入量は71年の約3万トンから05年には約87万トンへと増加(日本貿易月表)。売買方法も1頭ごとから部位ごとが主流となった。

 ナ社側の弁護人は「部位別単価を考慮しない今の制度は、規制の本来の目的に合っていない。むしろ、この制度によって、憲法で保障された営業権や財産権が侵害されている」と主張する。

 ナリタフーズは、輸入豚肉のうち、主に加工用となる冷凍肉の約3割を取り扱うとされる。同じく大手食肉卸会社「フジチク」(名古屋市)が05年5月、「協畜」(愛媛県)が06年11月に摘発を受けた。市場では同年4〜12月の冷凍豚肉の輸入量が前年同期に比べ約3割減っている(農畜産業振興機構)。摘発の影響、とみる関係者もいる。

 同制度に詳しい食肉アナリストの高橋寛さんは「差額関税の厳格な運用によって加工用原料肉が値上がりし、国内の加工業者の淘汰(とう・た)が始まる」と分析する。

 さらに差額関税の対象外で10%の定率関税となるソーセージなどの加工済み製品の輸入が増えているとして、「消費者も、最終的には高いものを買わされることになる。制度を撤廃し、他の食肉と同じ従価税にすべきだ」と話す。

■生産者団体「国産保護に必要」

 一方、06年11月に「不正輸入を許せない」とする新聞の意見広告を出した生産者団体「日本養豚生産者協議会」の志沢勝会長は「国産の農家は、環境対策のコストなどを多く負担している。豚肉を保護するためには、制度は必要。安全な国産豚肉を安定供給することで、消費者にもメリットがある」と話す。

 制度の目的は国内の養豚農家の保護。ただ、71年当時約40万戸あった同農家は、約7千戸に減っている。この点について、志沢会長は「税関がこれまで、輸入業者に制度をきちんと守らせなかったのがいけない」と指摘する。

 一方、農水省は「制度自体は(多国間貿易交渉の)ウルグアイ・ラウンドで国際的に認められているものだ」との姿勢を崩していない。

http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000702270001