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2007年02月26日(月) 00時00分

危険 移動中の音楽・携帯 東京新聞

 米ニューヨーク州議会で、道路横断の際、アップルの「iPod」など携帯音楽プレーヤーや携帯電話などを使用禁止にする法制化の動きが出てきた。注意力が散漫になり事故に遭いやすいというのが理由だ。日本でも愛用者は多い。「歩きながら使用」の危険性とは−。 (砂上麻子)

 法案を提案している同議会の議員は、ニューヨークの地元で、音楽を聴きながら歩いていた若者二人が車にはねられて死亡したことを法案提出の理由に挙げた。規制対象には、携帯音楽プレーヤー、携帯電話、携帯型ゲーム機も含まれ、違反者には罰金百ドル(約一万二千円)を科すという。

 歩行中の携帯電話使用では、日本でも事故が発生した。十九日、大阪市内の市営地下鉄ホームで、携帯電話のメールを打ちながら歩いていた女性会社員(25)が人と接触、線路に転落した。駆けつけた駅員がホーム下の避難場所に避難させ、女性は軽傷で済んだ。

 昨年十二月には、広島県内で男子高校生(18)が、踏切内に進入し、列車にはねられ死亡した。同県警によると、踏切には列車の接近を知らせる音声案内装置はあったが、警報機や遮断機はなかった。進入時に高校生が同プレーヤーを使用していたか不明だが、事故現場には落ちていたという。

 「ヒヤリ」とした経験をした人は少なくない。東京都内の女性(41)は音楽を聴きながら歩いていた時、車が後ろに迫っていたのに気づかず、ぶつかりそうになった。「音量を上げていなくてもイヤホンをしていると外部の音はかなり遮断されると分かり怖かった」

 会社員男性(45)は車の運転中、自転車に乗りながら同プレーヤーをつけた学生の姿に絶句した。「車道をふらふらと走行するので警笛音を鳴らしたが、音楽に集中しているのか無視されてしまった」と嘆く。携帯電話での会話中も外部の音は聞こえにくくなる。

 民間調査会社「富士キメラ総研」によると、同プレーヤーの二〇〇五年の国内販売台数は四百六十万台。価格低下などで二年前に比べると約四倍に急増している。

■耳から3割の情報

 こうした中、携帯電話などを使用しながらの自転車の片手運転を問題視、規制する動きも出ている。広島県は昨年六月から、片手運転に罰則規定を設けた。交通の頻繁な道路で携帯電話や傘を持つなどして片手運転をした場合、五万円以下の罰金となる。片手運転で不安定になったり、携帯電話使用で周囲への注意が散漫になり、歩行者にぶつかるなどマナーの悪さが目立つことから罰則を設けた。

 罰金を支払った例はないが、片手運転による事故は施行前(昨年一−五月)の十八件から、施行後は四件に減った。音楽を聴きながらの自転車運転は規制していないが、「耳をふさいでいれば、危険を察知するのが難しくなる。好ましくない」(同県警交通企画課)。

 実際に筑波技術大の大沼直紀学長(聴覚学)は「人間は、音の長さや大きさで音源を探ろうとする能力があり、その音の方に振り向いたりする。音楽で耳をふさぐと、音の方向感を失う」と危険性を指摘する。

 モータージャーナリストの三本和彦さんも「車や自転車の運転では目で七割、耳で三割の外部情報を得ている。それだけの機能が奪われていることをよく考えてほしい」と話す。ただこうした機器の使用はマナー問題だとして法規制は疑問視し、こう呼びかける。「音楽は落ち着ける場所で聴けばいい。歩く時、周囲に迷惑になることもあるので控えてほしい。事故が起きてからでは間に合わない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070226/ftu_____kur_____000.shtml