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2007年02月25日(日) 00時00分

混戦の主役たち〈下〉 平和票の行方朝日新聞

 今月12日、広島市で開かれたノーベル賞委員長オーレ・ムヨス氏を招いた国際フォーラムで、秋葉忠利前市長(64)の表情は紅潮していた。「素晴らしい仕事だ。心から支援したい」。ノーベル平和賞の選考を担うムヨス氏は、秋葉氏が8年間会長を務めた「平和市長会議」の活動を聴衆約430人の前で絶賛した。

 米国で約20年間の研究生活を送り、被爆の実相が伝わっていないと痛感した秋葉氏にとって、「核兵器廃絶」を世界へ広めることは「信念」という。平和市長会議の拡大は市長就任後、最も力を入れた分野だ。各国を渡り歩き、加盟都市を3倍以上の120カ国・地域1578都市に広げた。3選への姿勢を示していなかった今月初めには、世界の反核平和団体から「早く立候補を」というメールも相次いだ。

 ただ、こうした活動が市民に「わかりにくい」との見方もある。昨夏、秋葉氏は欧州を歴訪、被爆者の心情を織り込んだ英語演説は海外NGOから高い評価を受けたが、演説文が市のホームページに掲載されることはなかった。憲法9条を変える動きが加速するなか、支持者の中に「国とけんかしてでも改憲反対をはっきりと発信してほしい」という要望もある。

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 「政策通のこの人に、広島の未来を託したい」。今月下旬、元NHK記者で元市議の大原邦夫氏(57)の陣営が配布を始めた後援会のしおりが注目を集めている。91〜99年に広島市長を務めた平岡敬氏(79)が応援メッセージを寄せているからだ。

 平岡氏もまた「ヒロシマの心」を広げた市長だ。95年11月にオランダ・ハーグの国際司法裁判所で「核兵器使用は国際法違反」と主張したのをはじめ、政府の外交方針と衝突しながらも「核廃絶」を訴え続けた。

 平岡氏は朝日新聞の取材に「友情から応援に加わった」としながらも、「ヒロシマのメッセージ力が低下しつつあるなか、政策通の大原氏に市民の思いから出発する平和行政を提言してほしい」と期待を寄せる。

 市議会では無所属で活動し、保守系議員と親交があつい大原氏。だが、社会党衆院議員として被爆者援護に力を尽くした父の故・亨(とおる)氏と重ねる市民も少なくない。

 大原氏は立候補表明とともに発表した政策で「平和行政の再構築」を掲げ、広島と長崎の2市に限られている平和市長会議の国内都市への拡大や、市民参加による「平和100人委員会」の設置などを提唱している。

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 1月中旬、広島市中区のホテル。「私はタカ派ではありません。中道です」。自民議員や財界関係者ら約800人が集まり、事実上の決起大会となった新年互例会で柏村武昭・参院議員(63)の甲高い声が響いた。

 柏村氏は今年初めまで参院外交防衛委員長を務めて防衛庁の「省」昇格に力を入れ、憲法改正を唱えるなど「タカ派」と見られていた。04年にイラクで日本人人質事件が起きた際、参院決算委で「人質は反日的分子」と発言して批判を浴びたことも記憶に新しい。そんな見方を自ら意識しての「中道」宣言だった。

 今月中旬には市長選に向けて更新したホームページに「核廃絶は最重要課題。私は強力な機関車になる」とする一文を掲載した。一方で24日、朝日新聞の取材に「自衛隊を軍隊にするのは当たり前」「当面は核抑止力に頼らざるを得ない」とも答えた。

 柏村氏を支える自民市議は言う。「8月の平和宣言を読むのに誰がふさわしいか意識して投票する市民は多い」。3月25日の告示に向けて、「平和票」をめぐる争いは熾烈(しれつ)さを増しそうだ。

(武田肇 宮崎勇作)

秋葉忠利 64 〈元〉広島市長
荒木 実 63 不動産業
大原邦夫 57 〈元〉広島市議
柏村武昭 63 参院議員
前島 修 33 市民団体代表
(50音順、敬称略)

http://mytown.asahi.com/hiroshima/news.php?k_id=35000000702240007