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2007年02月25日(日) 00時00分

週のはじめに考える だれのための情報か 東京新聞

 ニュースが瞬時に地球を駆け回る情報化社会にあって、情報の役割や意味を考えさせる問題が相次ぎました。だれのため、何のための情報かと問われているのです。

 関西テレビの生活情報番組「発掘!あるある大事典2」の納豆ダイエット捏造(ねつぞう)問題は、テレビ界の根幹を揺るがす事態に発展しています。

 リンナイ製のガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故絡みでは、業界団体から過去二十年間の事故死者が百九十九人に上ると発表され、公表遅れへの批判が噴き出しました。

 さらに、新聞社への防衛秘密漏洩(ろうえい)容疑で自衛隊幹部が事情聴取など捜査を受け、国民の知る権利への影響を懸念する声が高まりました。

■情報主の思惑が優先

 いずれも共通しているのは、情報の持ち主や送り手側の思惑や論理が優先し、情報の受け手は二の次になっていることです。

 情報に関するエピソードを一つ紹介します。米国のジャーナリスト、リップマンの古典的名著「世論」(岩波文庫)の冒頭にあります。

 <一九一四年、大西洋の島に英国人、フランス人、ドイツ人たちが住んでいた。電信は通じず、情報は二カ月に一度の郵便船だけだった。ある日、船着き場に集まった人々は驚く。六週間以上前に、英仏両国とドイツ間で戦争が始まっていたと知ったからだ。島の住民は仲良く暮らしていたが、現実には敵同士だった>

 リップマンは続けます。「われわれは、周囲の状況をいかに間接的にしか知らないかに気づく」

 つまり、情報のほとんどは間接(二次)情報だというのです。この指摘は百年近くたった今でもさほど変わりありません。自分で見聞きして得る直接情報の量は、たかがしれています。ただ、激変したのは、情報を伝達する手段(メディア)が飛躍的に発達したことです。

 新聞など活字メディアに電波(テレビ・ラジオ)が加わり、さらにインターネットが登場。デジタル化による情報技術の進展で多メディア多情報社会が到来したのです。

 実際に、人やモノ、出来事についての情報が洪水のように押し寄せてきます。しかも自分で確かめるのが難しい間接情報が大半です。

■メディアの責務重大

 情報の売り場面積が増えた分、受け手側にも情報が本物か偽物か、これをいかに読み取るか、判断力が要求される時代になりました。

 では、情報の価値を何に見いだせばいいのでしょう。決め手は正確、公正、信頼といった情報の送り手の信用力です。とりわけ、当事者らに取材し、事実を掘り下げて伝えることで国民の知る権利に奉仕する報道・メディアの責務は重大です。

 それが見事に裏切られました。実験データや研究者の談話が捏造された「あるある大事典」は、情報の正確さより視聴者受けする面白さ、換言すれば高視聴率による広告収入を大事にしたのです。

 風鈴の学力向上効果を取り上げたTBS「人間!これでいいのだ」、雑種犬の能力検証で飼い主とは別人を登場させていたフジテレビ「トリビアの泉」など、他局の番組でも不適切な表現が指摘されました。

 「面白くなければテレビではない」。そのため多少の「作為」は許されると考えたのなら、とんでもない間違いです。テレビ不信が及ぼす余波も深刻です。

 放送局への監視、管理強化に乗り出す口実を総務省に与えました。自主性にゆだねられるべき番組に対する行政の介入は、表現や報道の自由にとって望ましいはずはありません。視聴者の信頼回復へ放送業界挙げての自浄努力が必要です。

 防衛秘密漏洩問題も、安全保障を理由に安易な情報隠しや、捜査による取材、報道の委縮につながりかねず、知る権利を制約しないか危惧(きぐ)されます。

 捏造番組が情報の「作為」なら、リンナイと監督官庁の経済産業省は情報伝達の「不作為」の責めを負わねばなりません。ガス湯沸かし器による四十八人の事故死を最近まで公表しなかった松下電器産業も同じです。

 パロマ工業製のガス湯沸かし器による一連の中毒事故が明らかになったのは昨年七月です。ところが、同じ名古屋に本社のあるリンナイの場合、事故のたびに内容を知りながら公表したのは、今月に入って横浜市で新たな死者が出てからでした。

■市民の側に立つ基本

 松下電器を含め、どうして危険情報を周知徹底しなかったのでしょう。「製品に起因しない」「誤使用」などの理屈で、安心・安全な製品を提供するという社会的責任に目をつむったのですか。

 「公表が早ければ助かった命かもしれない」。遺族らの悲痛な言葉からも、メーカーや経産省の対応の不備や怠慢が浮かび上がります。

 情報化社会で最も大切なことは、新聞などメディアはもちろん、企業も行政も「だれに」「何を」「何のために」伝えるかの基本を忘れないことです。常に情報を伝えるべき市民の側に立つことです。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20070225/col_____sha_____001.shtml