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2007年02月25日(日) 20時37分

「やらせ」か「演出」か テレビ映像、どこまで許される?朝日新聞

 テレビに映し出される「事実」には、どこまで「うそ」が許されるのか。関西テレビの「発掘!あるある大事典2」の捏造(ねつぞう)問題が、この難問を再燃させている。視聴者からは、様々な番組に「あれはやらせだろう」と疑問を指摘する声が噴出。浮かび上がるのは、テレビの送り手と受け手の常識の間にある深い溝だ。

●送り手・受け手に温度差

 「あるある」問題で関西テレビが最初の会見をした先月20日の翌日。

 日本テレビ系のバラエティー「ザ!鉄腕!DASH!!」(夜7時)放送後、同社に数十件の問い合わせや指摘が入った。問題となったのは、男性アイドルグループが東京の臨海副都心で新交通システム・ゆりかもめと自転車リレーで競走するコーナーだ。

 映像は主に自転車を追ったが、競走相手の車両が駅に着くたび、それをホームから映した映像に切り替わった。しかし、これは事前や事後に撮影した別の車両の映像だった。車体番号が毎回違うことに気付いた視聴者が「本当に競走したのか」などと指摘した。

 同社総合広報部は「違和感を抱かせるものだった」と認めつつ、「レース展開を分かりやすく伝えるための通常の演出・編集の範囲内。捏造ではない」と話している。

 「あるある」以降、「やらせではないか」という指摘が視聴者らから相次いでいる。学習塾に制作スタッフが用意した風鈴を持ち込んでおきながら、「頭が良くなる風鈴を使っている塾」と紹介したケース(TBS「人間!これでいいのだ」)や、飼い主の危機に犬がどう反応するかという実験で、別人が飼い主を演じていたケース(フジテレビ「トリビアの泉」)などだ。

 両局とも「過剰な表現だった」(TBS)、「反省すべき点があった」(フジテレビ)と釈明しながら、「やらせではない」と強調した。

 こうした題材をもとにネットなどでは「テレビのうそ」告発で盛り上がる。だが、テレビ関係者の多くは困惑気味だ。

 「すべて真実だとうのみにしている人が多いことに驚いた」と話すのは都内の番組制作会社に勤める男性ディレクター(33)。記事と違い、映像がないと成立しないのがテレビ。「すべてのウソを排除したら、何も撮れなくなる」

●報道と娯楽、境あやふや

 徹夜して朝を迎えた、という設定の時、実際には雨天でも、別撮りした朝日の映像を編集して挟み込む。こうした本筋に差し障りのない小さな「やらせ」は、ドキュメンタリーなどでも日常化しているという。

 別の制作会社の20代のディレクターはバラエティーの収録で、街頭で複数の女性の顔写真を見せだれが一番美人と思うかを尋ねた。一人に回答が集中しないようプロデューサーから指示されたため、途中から「2番目は?」と聞き、その後編集した。「演出の範囲内。バラエティーの場合、視聴者もウソを前提で見ているんじゃないですか」

 やらせは90年代以降、特にドキュメンタリーで問題化した。やらせの基準作りを求める声を受け、NHKと民放連による番組倫理委員会は93年に心構えを説く提言をまとめたが、具体例に即しての基準は示されなかった。事実の再現手法については「一つの表現としてあり得る」とした上で「社会的常識の範囲内で行う」とだけ記した。

 ニュース番組やドキュメンタリーと情報・娯楽番組の境が近年なくなってきたことも、問題を複雑にしている。制作会社テレビマンユニオンの今野勉副会長は「『情報』は『お笑い』などと違って誇張してはいけないものなのに、視聴者も薄々わかっているだろうと、いじるようになってしまった。作る側は、情報を扱っているという意識をもっと持たなければならない」と話している。

http://www.asahi.com/culture/tv_radio/TKY200702250139.html