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2007年02月25日(日) 10時18分

情報収集衛星 打ち上げ成功…4基態勢に毎日新聞

 4基目の情報収集衛星が24日、打ち上げに成功した。今国会には与党が防衛目的の宇宙利用に道を開く宇宙基本法案(仮称)の提案を目指しており、情報収集能力の向上に期待が集まる。しかし、過去の打ち上げ失敗で本格運用の4基態勢は長くは続かないとみられ、肝心の撮影能力は米国の商業衛星にも劣る。5000億円という巨額の費用に見合うのか。【下桐実雅子、反田昌平、須田桃子】

 ◇間もなく寿命?

 「米国の衛星は数センチの大きさのものまで見分けられる能力を持つというが、提供していい情報しか日本には出してこない。自前の情報が得られる意味は大きい」。4基態勢の実現に、防衛省幹部はこう話す。
 情報収集衛星は、北朝鮮のテポドンミサイル発射(98年)を機に導入された。当初は03年11月に4基態勢になる予定だったが、打ち上げに失敗。同年3月に打ち上げた最初の2基は設計寿命の5年を07年度に迎える。衛星を運用する内閣衛星情報センターは「最初の2基は順調なので寿命は延びるだろう」と話すが確証はない。

 ◇一切公開されず

 情報収集衛星には98〜06年度に5050億円が投じられた。大規模災害時にも活用される。しかし、これまで災害時も含め撮影された画像は一切公開されたことがない。「公開すると衛星の正確な軌道が分かってしまう」(同センター)と説明する。米国は商業衛星ですら物体の識別能力は60センチ。情報収集衛星は政府見解により物体の識別能力を民間レベルの1メートルに制限されているが、実際はこれより悪く公開しにくいのではないかという声さえある。
 政府の総合科学技術会議の事業評価では「機微な情報を含むため対象外」(内閣府)だ。巨額な税金が投じられた事業だが、どのように役立っているのかは、国民には見えない。
 内部からも「ある情報をつかんで、2時間後に撮影してもらいたいと要望しても、他の役所(警察庁、消防庁、国土地理院、内閣官房)の仕事があるので撮影してもらえないこともある」(防衛省)と不満が漏れる。

 ◇宇宙基本法は?

 宇宙基本法案が成立すると、「非侵略」であれば軍事利用もできる。防衛省の政策担当者も「早期警戒衛星のような軍用システムを持つべきかなど、議論がでてくると思う」とみる。
 立命館大の藤岡惇教授(アメリカ経済学)は「基本法ができれば、衛星を中心とした米のネットワーク構想や宇宙の軍事化の動きに組み込まれる恐れがある。攻撃能力を持たないからいいという甘いものではない」と新たな脅威を指摘する。
 一方、内閣衛星情報センターは法案の成否にかかわらず、4基態勢を維持する考えだ。09年度打ち上げ予定の後継衛星は物体の識別能力60センチレベルを目指し、11年度にはさらに2基を打ち上げる予定。来年度には約600億円が計上されている。
 宇宙開発に詳しいジャーナリストの松浦晋也さんは「過剰な秘密主義のため、きちんと使えているのか分からない。衛星の費用は民生用の宇宙開発費を削ってねん出されたが、現状では5050億円の価値はなく、国民への説明責任も果たしていない」と厳しい。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070225-00000001-maip-soci