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2007年02月24日(土) 00時00分

「生きた証し」に作品集朝日新聞

■ハンセン病療養所で出版相次ぐ/光明園の山内さん 処遇・偏見に怒りも

 瀬戸内市にある二つの国立ハンセン病療養所で、入所者の元患者による詩歌などの作品集の出版が続いている。11年前、強制隔離を推し進めた「らい予防法」が廃止され、6年前には国家賠償請求訴訟で元患者側が勝訴。療養所を訪れてハンセン病の歴史を学ぶ市民も増え、その触れあいを通じて、元患者の間で根強かった「療養所で黙って死ねば家族を迫害から守れる」という意識も前向きに転じたようだ。高齢化も進み、生きた証しを残したいという願いは強い。
(三宅一志)

 邑久光明園(入園者232人、平均年齢79・5歳)の場合、詩集、歌集、随筆集など作品集の発刊は、この10年で優に10冊を超えるという。長島愛生園(403人、79・3歳)でも、つい最近も2人が詩集と随筆集を出した。1年で約2冊のペースが続くという。

 光明園での最新刊は、山内宅也さん(73)が今月25日付で出す「仮名の碑」(136ページ、2千円)=写真。詩30編と、随筆2本を収める。

 15歳で福井県から光明園に入った山内さんは、仲間と詩の創作を始め、同園の機関誌「楓(かえで)」などに発表。収録する詩では、筆舌に尽くしがたかった園内での過去の処遇と、一向に改まらない偏見への怒りを抑制を利かせて表現した。

 随筆では、通り一遍に使われている「元ハンセン病患者」という表現を考察。「予防法が廃止された時から、自分たちは一般の人と同じ立場のはず。だが、施設外に出るといまだに『元患者』の影がよぎる思いをする」と、かわり映えのしない世間の風の冷たさを指摘している。

 光明園の牧野正直園長(63)は「本が出ることは本人にとっても生きる張り合いになる」と応援する。

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悲しまれる縁を断ち
語られる思い出を残さず
偲(しの)ばれる遺徳を残さず
ひたすら生きてきたかたちを残さず
それこそがここでのせめてもの
自分の生きる徳としてきた
消え入りそうなその軌跡
(山内さん作の詩「納骨堂」より)

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