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2007年02月24日(土) 03時06分

毎日新聞記者、糸川議員の取材録音渡す 処分へ朝日新聞

 毎日新聞社は23日、国会質問をめぐって国民新党の糸川正晃衆院議員(32)が脅迫された事件にからみ、同社社会部の記者が糸川議員を取材した際の録音データを第三者に渡し、インターネット上に内容が掲載されていたと発表した。同社は「記者倫理を逸脱した行為」として、同議員側に謝罪。近く記者らの処分を決める。

記者会見で説明する伊藤芳明・毎日新聞東京本社編集局長(左)と斉藤善也・同社会部長=23日午後、東京都千代田区で

 データを渡していたのは、東京本社社会部の大平誠記者(41)=23日付で東京本社代表室付。毎日新聞は昨年1月、東京・南青山の土地取引に関する問題を同記者らの署名入りで報じた。糸川議員は同年2月、この土地の取引状況などについて国会で質問。同3月、会社役員山元康幸容疑者=暴力行為法違反容疑で逮捕=から再質問しないようになどと脅迫を受けたとされる。

 毎日新聞によると、大平記者は昨年4月、東京の議員会館で糸川議員に脅迫の件を取材した際、無断でICレコーダーで録音。5月、取材協力者に頼まれ、録音データが入ったICレコーダーを渡した。金銭の授受はなかったという。

 データは今年1月、この取材協力者から別の人物に渡り、それをもとに作成されたとみられるメモが同月16日、インターネットのブログに掲載された。この内容は少なくともほかの2カ所のブログに転載された。

 同月19日に糸川議員の秘書から連絡を受けた同記者が、取材協力者に削除を依頼。数日以内に最初のブログからは削除された。同記者は毎日新聞が今月22日に他の新聞から取材を受けるまで、上司にこの件を報告していなかった。

 同記者はデータを渡した行為について認め、「94年からつき合いのある取材協力者に頼まれたので渡した。第三者に渡されるとは思わなかった」と話したという。

 糸川議員の取材内容を無断で録音したことについて、同社の伊藤芳明・東京本社編集局長は「(無断録音は)許される場合もあり、本件は問題ないと判断している」と述べた。

 同社は取材源の秘匿を理由に、取材協力者の詳細は明らかにしなかったが、関係者によると、大平記者の土地取引をめぐる取材で、人脈の紹介などをしていた男性だという。この男性は朝日新聞の取材に対し、「大平記者がすごいことを聞いてきたと言うので、聞かせてくれと伝え、ICレコーダーを受け取った。記事が提訴されるなど苦労していた記者を助けようと、善意で(ブログを書いた)フリーライターらに取り上げてくれるよう持ちかけた。録音データをさらに他人に渡すことが悪いとは思わなかった」と話した。

 同記者が録音データを渡した当時、毎日新聞はこの土地取引についての昨年1月の記事をめぐり、名誉棄損だとして1億ドル以上の損害賠償を提訴されていた(昨年12月に和解)。また、大平記者と糸川議員には昨年5月、実弾が入った小箱と脅迫状も送られていた。

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 〈伊藤芳明・毎日新聞東京本社編集局長の話〉 取材した素材を取材相手の了解なく渡した行為は、取材先との信頼関係を損ない、記者倫理に外れる行為で、決して許されません。読者の皆様の信頼を損なう結果となり、誠に申し訳ありません。十分な社内調査のうえ、厳正に処分します。

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 〈糸川正晃・衆院議員の話〉 ブログの内容は確認できていないが、事実ならば残念と言うしかない。マスコミが守るべき最後の一線を越えてしまうと、話せることも話せなくなってしまう。適切な取材をし、記者倫理を守ってほしい。録音については覚えていない。少なくともICレコーダーは卓上に置かれていなかったと思う。

http://www.asahi.com/national/update/0223/TKY200702230347.html