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2007年02月21日(水) 00時00分

日銀利上げ決定…富裕層が得、景気には逆効果かZAKZAK

 福井俊彦総裁と2人の副総裁、6人の審議委員を含む9人の政策委員で多数決をとり、利上げに賛成が8票、反対が1票となった。

 利上げの是非で焦点となったのは「個人消費」と「物価」。1月の会合では、「消費や消費者物価に弱めの指標が出ている」(福井総裁)ことが利上げ見送りの理由となった。一部の審議委員が利上げを独自提案したが、6対3で現状維持を決めた。

 今回の会合では、今月15日に発表された2006年10−12月期のGDP(国内総生産)で個人消費が1.1%増となったことで改善の見通しがついたと判断、物価もプラス基調が続くとの意見が多数となったもようだ。その結果、「息の長い」景気回復を実現するには追加利上げで金利正常化を進める必要があると判断したとみられる。

 ただ、所得の伸び悩みが続いており、GDPでの個人消費の伸びは「悪い数字だった06年7−9月期の反動に過ぎない」(エコノミスト)との声もある。また、12月の全国消費者物価指数の伸び率は前年同月比0・1%に低下。今後は原油価格下落の影響でマイナスに逆戻りする可能性も指摘されており、日銀の今回の判断が正しかったのかどうか論議を呼ぶ可能性もある。

 短期金利は、金融機関同士が短期資金を融通し合う際の金利。日銀は昨年7月にゼロ金利を解除し、短期金利の誘導目標を0.25%に引き上げたが、その後は現行政策の維持が続いていた。

 「金利を調節する余地のある“のりしろ”として0.75%−1%まで早期に利上げするのが日銀の悲願」(市場関係者)とされる中、4月の統一地方選、7月の参院選が近づくと、景気を冷やすおそれのある利上げは一段とやりにくくなるという事情もあり、今回踏み切ったようだ。

 一方、成長重視戦略をとる政府・与党は利上げしてほしくない立場。しかし、1月の決定会合のときのような表だった牽制(けんせい)の動きはなかった。

 これは「政府・与党が利上げによって景気が腰折れした場合の結果責任を日銀に問う作戦に切り替えた」(市場関係者)ためとみられている。

 今後、景気が悪くなれば、すべて日銀のせいにされる可能性がある。日銀にとっては、これからが正念場だ。 悲願の追加利上げを決定した日銀。短期金利の誘導目標は0・5%となったが、「福井俊彦総裁の任期である来年3月までに1.0%までの引き上げを狙っている」との見方もある。利上げが続けば、住宅ローン金利が上がるだけでなく、将来的に国民に増税や社会保障費削減の形でツケが回ってくるおそれもある。

 【増税か低福祉か】

 利上げを決断した日銀の意図について、元日銀マンでクレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏はこう解説する。

 「消費者物価指数が対前年比0%に近い今の水準で利上げしたということは、日銀は中期的にも物価上昇率0%が望ましいと考えているということ」

 これは、経済成長重視で「増税なき財政再建」を掲げる政府・与党と逆行する路線だ。

 「0%の物価上昇率が続けば、成長率も低くなり、国の税収は年間1兆円強しか増えない。それでは高齢化に伴って増加する社会保障費をまかないつつ、財政再建することは極めて困難」と白川氏は指摘。今後は「国民に増税か社会保障費の削減のいずれかを迫る可能性が高い」という。

 【住宅ローン】

 目先の懸念材料は、住宅ローン金利の上昇だ。すでに固定金利でローンを組んでいる人に直接の影響はないが、これから住宅ローンを組もうと計画している人や、変動金利ローンを借りている人には負担増となる可能性がある。すでに2月から大手銀行は、固定金利を0.04−0.15%程度引き上げている。

 住宅ローン金利は昨年前半に上昇基調となった後、揺り戻しの引き下げが続き、その後は一進一退の状況が続いている。ただ、日銀が今後も追加利上げを続けるなら、中期的には上昇基調となりそうだ。

 【預金金利アップ】

 一方、預金金利も上昇が見込まれる。「預金金利は1996年以来の高水準になると考えられる。となると、手持ちの資金を貯蓄しようとする人が増え、消費に回らなくなる」(白川氏)。結局、たくさんお金を持っている富裕層が得をしても、景気には逆効果だというのだ。

 さらに「円高」も懸念材料。金利が上がるとその国の通貨が買われる傾向があるため、円高が進む可能性もある。

 日本経済を引っ張る主要輸出企業の2006年4−12月期決算では、円安による利益の押し上げ効果が寄与しており、円高は痛手となる。デフレ不況に逆戻りしなければいいのだが。

★正副総裁割れる

 金融政策決定会合で、9人の政策委員のうち追加利上げに反対の1票を投じたのが、岩田一政副総裁だった。決定会合で正副総裁の票が割れたのは初めて。

 岩田氏は東大教養学部卒で、1970年に経済企画庁入庁。同庁経済研究所主任研究官を経て東大教養学部教授となり、2001年から内閣府政策統括官(経済政策−景気判断・政策分析担当)を兼任。03年3月に日銀副総裁に就任した。

 「消費者物価指数の伸び悩みを理由に利上げに反対したのでは」(金融関係者)とみられる。 

ZAKZAK 2007/02/21

http://www.zakzak.co.jp/top/2007_02/t2007022130.html