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2007年02月20日(火) 22時56分

死刑囚100人に 宇都宮の宝石店放火で朝日新聞

 最高裁第三小法廷は20日、強盗殺人などの罪に問われた被告の上告を棄却する判決を言い渡した。一、二審の死刑が確定し、生存する死刑囚は100人に達する見通しだ。年末時点でみると死刑囚が3けたに上った年は1946年以降、例がない。多人数の執行には比較的慎重な法相が多い一方、死刑判決が急増したのが原因だ。

死刑確定者、執行者数の推移

 上告を棄却されたのは篠沢一男被告(55)。宇都宮市の宝石店に放火し、従業員6人を殺害した。那須弘平裁判長は「何の落ち度もない6人の生命を奪うなどした結果は極めて重大。遺族の処罰感情は非常に厳しい」と述べた。

 現在確定した死刑囚は98人。2月6日に死刑判決を受けた別の被告は、判決の訂正を申し立てている。被告は判決翌日から10日以内に訂正申し立てができるが、申し立てないまま10日間が過ぎるか申し立てが棄却されれば、死刑が確定する。

 ■判決

 昨年末に4人が処刑され、生存死刑囚は94人に減ったが、2カ月で大台に乗ることになった。最大要因は死刑判決の急増だ。昨年、死刑を言い渡されたのは、最高裁が集計をまとめた80年以降最多の44人(地裁13人、高裁15人、最高裁16人)。01年に初めて30人に上り、以後24人、30人、42人、38人と推移した。

 あるベテラン刑事裁判官は「死刑以外に選択しようがないむごい事件が増えている」と語る。別の裁判官は、最高裁が昨年、山口県光市の母子殺害事件で当時18歳の少年への無期懲役を覆した判決に触れ、「かなり死刑のハードルが低くなった印象。下級審の裁判官が受ける影響は大きい」。

 市民が参加する裁判員制度が始まると、死刑か無期かの限界事例で、死刑判決はさらに増えるのか。「感情に流され死刑が増える」との見方もある。しかし、「死刑を科すことにおそれを抱き、無期懲役に傾く市民もいるだろう。一人で決めるわけではないし、極端な結果にはならないだろう」というのが、法曹界の大方の見方だ。

 ■執行

 執行のペースが「判決ラッシュ」に追いつかないことも要因だ。執行命令書への署名を拒んだ杉浦前法相の後任の長勢法相は昨年末、4人の死刑執行を決めた。一度に4人は9年ぶりだった。「年内の執行者をゼロにしたくないという意図はあっただろう」。法務省幹部はこう打ち明ける。「でも、焼け石に水だ」

 死刑執行はここ10年間、6〜1人。幹部は「国会審議に影響を与えない閉会中に時期は限られ、万が一を考えて慎重に判断する。突然大勢を執行できる話でもない。今がギリギリの形ではないか」と話し、こう付け加える。「終身刑を含め制度を論じなければならない時期が来ているのだろうとは思うが……」

 ■傍聴席

 最近、最高裁の法廷から消えたものがある。

 傍聴席の死刑廃止運動家らが、死刑判決言い渡し直後に「人殺し!」と叫ぶ場面だ。最高裁判事らが被告の生命を奪う最終判断をした、という抗議の意味を込めていた。

 その言葉を叫ぶために30年前から法廷に通った菊池さよ子さんは「死刑判決が月に何度も入るようになり、法廷は機械的に判決を出す場になった。被告との関係を一つひとつ築くのも難しくなった」と話す。「訴えれば通じるかもしれないという裁判官がいなくなった」。74〜83年に在職した団藤重光さんが決定的に死刑廃止論者になった契機は、傍聴席から菊池さんが投げかけた言葉だったとされる。

 超党派の議員でつくる死刑廃止議員連盟は(1)仮釈放なしの終身刑の創設(2)死刑制度調査会を国会に設置し、その議論中は死刑執行を停止すること——を提言したが、実現のめどは立っていない。約120人いた議連のメンバーも現在は約70人に落ち込んでいる。

http://www.asahi.com/national/update/0220/TKY200702200465.html