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2007年02月18日(日) 00時00分

リッチランド660万被害者 東京新聞

 「必ずもうかる」。架空の投資話で金を詐取したとして、警視庁などが詐欺容疑で逮捕した健康食品販売会社「リッチランド」会長佐伯万寿夫容疑者(61)は、会員にそう力説したという。こうした“詐欺の決まり文句”に動かされ、一万三千人が約五百三十七億円を出した。勧誘手段は口コミ。六百六十万円を出資した男性会員(67)は「仕事がなく病気で不安な時、信頼する人に勧められた。不思議なほど判断が鈍っていた」と今も悔やんでいる。 (中沢佳子)

 「本当にばかだった」。佐伯容疑者逮捕の二日後、この男性は都内の喫茶店で繰り返した。

 兵庫県で建設業を営んでいたが、一九八〇年ごろ、手掛けていたマンションの施主が倒産して連鎖倒産。十五年かけ借金を返したものの、阪神大震災で自宅を失った。長野県に移り、建設作業員の賄いの仕事をしたが、不況で建設事業が減り、仕事もなくなった。新たな職も見つからず、ぜんそくも患っていた。

 「信じないだろうけど、いい話がある」。二〇〇三年ごろ、窮状を見かね、知り合いのリサイクルショップ経営者が声を掛けてきた。化粧品や食品を買う名目で、リッチランドの事業に投資すれば配当が出るという内容。「僕も半信半疑だった。でも配当が出た」と貯金通帳を見せられた。その経営者は地元の名士。信頼していた。

 まず、妻(65)が六十万円を出資。投資事業は、財宝が眠る沈没船の引き揚げ。「損をしても夢を買ったと思えばいい。宝くじのようなものだ」と考えた。苦しい現実の中で夢も見たかった。

 〇四年六月、事業説明会で「五年で元手が二・五倍の事業」を知った。東欧での不動産開発で、現地の映像も見せられた。「そうばかげた数字じゃないな」と考えたが、金がない。その時、上級会員の「販社」と呼ばれる立場の女性がささやいた。「生命保険を解約すれば?」。男性は貯蓄型の生命保険を解約。妻と二人で計六百万円をつぎ込んだ。

 ところが〇五年六月、配当が払えないと連絡があった。警視庁の家宅捜索は、それから間もなく。数日後に訪ねた同社には誰もいなかった。それまで受け取った配当は妻と合わせて百万円ほどだった。

 男性は今、都内で住み込みの管理人をしている。給料は出ないが食事が出る。でも、妻は人間不信とストレスでうつ病になった。時々「死にたい」とつぶやく。男性も体調が悪化し三回入院。慣れない都会の暮らしは、心身にこたえる。

 男性は返金を期待していない。ただ、逮捕された佐伯容疑者をテレビで見て、あらためて怒りがわいた。「内証の金もうけ。99・9%信用して」と説明会で見せた笑顔の裏を見抜けなかったのが、悔しかった。男性は「せめてもの救いは、私が他人を勧誘しなかったこと」と話す。悪気はないと分かっているが、自分を誘った経営者の顔は今も見たくないという。

 もうけた会員は、早い時期に出資し、積極的に勧誘もした販社ら、ごく一部。被害は生活に不安を抱いていた高齢者や主婦、不況で経営に行き詰まった自営業者に広がった。だまされるのが悪い、と言えば簡単だ。だが、不安にさいなまれている時、信頼する人から聞く言葉には強い力がある。口コミを悪用し、人間の不安につけ込む詐欺商法は、金ばかりか他人を信じる力もだまし取る。だから一層、悪質だ。

 リッチランド社による巨額詐欺事件 会長の佐伯万寿夫容疑者らが、商品の販売を装った架空の事業投資を持ち掛け、約1万3000人から537億円をだまし取ったとされる事件。2005年6月に警視庁生活経済課が同社を家宅捜索し、静岡、福岡両県警と合同捜査本部を設置して捜査し、今年1月30日に佐伯容疑者と同社幹部、「販社」と呼ばれる上級会員の計17人を詐欺容疑で逮捕した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20070218/mng_____sya_____009.shtml