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2007年02月16日(金) 02時08分

松本死刑囚の弁護士、東京高裁が37年ぶり懲戒請求へ読売新聞

 オウム真理教の松本智津夫死刑囚(51)の控訴審で弁護人を務めた弁護士2人について、日本弁護士連合会(日弁連)が処分しないと決定したことを受け、処分を求めていた東京高裁は15日、両弁護士の所属弁護士会に改めて懲戒請求を行う方針を明らかにした。

 日弁連は両弁護士の弁護活動について調査をしないまま、「門前払い」の形で決定を出したが、懲戒請求を受けた所属弁護士会は事案の調査を行わなければならない。

 最高裁によると、裁判所による懲戒請求は過去4件しかなく、今回行われれば、1970年以来37年ぶりになる。

 同高裁が処分を求めていたのは、松下明夫(仙台弁護士会)と松井武(第2東京弁護士会)の両弁護士。

 両弁護士は松本死刑囚の控訴審で、当初2005年1月11日だった控訴趣意書の提出期限の延長を申し立て、同年8月31日まで延長が認められたにもかかわらず、期限までに趣意書を提出しなかった。この結果、同高裁は昨年3月に控訴棄却を決定。最高裁もこれを支持し、昨年9月15日に松本死刑囚の刑が確定した。

 同高裁は同月25日、両弁護士の弁護活動が悪質な審理妨害に当たるとして、日弁連に懲戒処分などの措置をとるよう求める「処置請求」を行った。

 これに対し、15日の日弁連決定は、「処置請求の目的は審理中の訴訟手続きの障害を取り除くことにある」と指摘した上で、「裁判が終了した後に処置請求は出来ない」として、両弁護士が審理を妨害したかどうかを調査しないまま、不処分の結論を下した。調査委員長を務めた柳瀬康治弁護士は東京・霞が関の弁護士会館で記者会見し、「(弁護活動の)中身について議論すべきという意見はあったが、不適法な請求に対し、調査を継続することはできない」と述べた。

 また、松下、松井両弁護士も同日夜、東京・霞が関で記者会見し、松井弁護士は「決定については素直に喜びたい。(処置請求は)裁判所が弁護活動を委縮させることを狙っているとしか思えない」などと話した。

 この決定について、東京高裁の山名学事務局長は、「日弁連は、形式的な理由で両弁護人の弁護活動の当否についての判断を回避した。弁護士倫理の強化が求められているのに、今回の判断は、こうした要請を無視するもので、極めて遺憾だ」と厳しく批判。「両弁護人の行動が許されないものであることを明確にする」として、弁護士会の自主的な判断を促す「処置請求」ではなく、直接、所属弁護士会に懲戒処分を求める「懲戒請求」に踏み切る方針を明らかにした。

 一方、事件の被害者らからも、日弁連の決定に批判の声が相次いだ。

 地下鉄サリン事件の被害対策弁護団事務局長の中村裕二弁護士(50)は、「日弁連が身内の弁護士をかばったと国民から誤解され、法律家に対する不信を招きかねない」と批判。同事件で夫を殺害された高橋シズエさん(59)は、「弁護士会の自浄作用には期待していなかったので、仲間の弁護士を処分しないと判断しても不思議ではない」と語った。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070215it16.htm