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2007年02月12日(月) 00時00分

永代供養墓モテモテ朝日新聞

 一人っ子の娘は敬虔(けい・けん)なクリスチャンの家へ嫁いだ。「私たちお墓、どうしようか」。老境を迎え、夫婦は考えた。思い切って生前墓を買い、永代供養や葬儀の手続きも済ませた——。それから10年。「誰にも迷惑をかけずに最期を迎えられる」。そんな解放感からか、旅行や趣味に忙しい2人の日々はますます輝きを増している。NPO法人永代供養推進協会(目黒区)によると、こんな「選択」をする夫婦がここ数年、急増しているという。
(上野麻子)

 小金井市に住む荒井忠雄さん(82)、恵美子さん(75)夫婦は、近所でも有名なおしどり夫婦。出かけるときは、赤や黄色、派手めのペアルックで決めている。

 米軍立川基地でレーダーの技術者として働いていた忠雄さんは50代で独立、横浜でコンピューター関連の会社を起こした。働きづめの日々が過ぎ、71歳でようやく引退。夫婦2人の悠々自適の生活が始まった。

 そのころ、恵美子さんがある新聞広告に目をとめた。新宿区の寺で、生前個人墓、戒名、永代供養がセットで申し込めるというのだ。早速、その東長寺へ説明を聞きに行き、その場で決断した。2人合わせた費用は140万円(当時)。恵美子さんは言う。「永代供養にひかれて。クリスチャンの娘に負担をかけるわけにいかないし、ここならたくさんの人に囲まれて寂しくないな、と」

 荒井さん夫婦の墓は、境内に広がる静かな池の中に据えられている。約20センチ四方の御影石に個別に名前が刻まれ、その集合体がぽつんぽつんと水面からのぞいている。

 すでに戒名が書かれた位牌(い・はい)は地下のお堂に。荒井さん夫妻と同じような思いで申し込んだ約8500柱が並ぶ様子は壮観だ。

 墓を買って10年がたった。不思議なことに2人の生活はますます忙しくなっていく。

 仕事を辞めた忠雄さんが「ぬれ落ち葉」になるのを恐れた恵美子さんに尻をたたかれて入った、囲碁や料理のサークルだが、今や中枢メンバーとして多くの雑務が押し寄せてくる。

 手芸が生きがいの恵美子さんは、ボランティアではり絵を教えてもう35年になる。寺のコーラスサークルにも入った。「入るところが一緒、と思うから連帯感が強いですよ」。仲間たちを「テラトモ」と言うらしい。

 最近の2人の悩みは、忠雄さんが太り気味なこと。「そんなに食べちゃ、長生きできないわよ」「明日コロリと死んでもいいよ」。こんなやりとりが、2人の間ではあっけらかんと交わされている。

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 様々な仏事相談を無料で受け付ける永代供養推進協会の小原崇裕代表によると、永代供養に関する相談は昨年1年で約450件。前年比で3倍に増えたという。「子どもに墓守の負担を残したくないという気持ちは多くの人にある。そこに永代供養墓への認知度が定着してきた」

 これからの時代、檀家(だん・か)・門徒が増える要素が少ないという寺側の事情ともマッチして、だれでも入れる永代供養墓は全国に広がりを見せている。現在、同協会が把握している永代供養墓は全国で329カ所、都内で69カ所ある。

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000702130001