記事登録
2007年02月10日(土) 02時04分

2月10日付・編集手帳読売新聞

 昭和の終わりごろと記憶している。森繁久弥さんが日本記者クラブで講演し、帰り際にクラブのサイン帳に揮毫(きごう)した。署名に添えて一句があり、「鵜(う)は沈み鵜は浮き人は舟の上」という◆俳優を鵜に、番組の制作者を鵜匠に例えたものらしい。時は移り、俳優さんも現在は意のままに使われるばかりでもなかろうが、テレビ番組の制作現場にはいまも別の形で「鵜」と「舟の上」の関係が生きつづけているようである◆納豆のダイエット効果を巡る番組の捏造(ねつぞう)問題で、関西テレビが総務省に報告書を提出した。捏造の原因は孫請けの制作会社にあり、偽りを見抜くのは困難だという。「舟の上」から「水の中」は見えません。そう言いたいのだろう◆見えなければ社員を下請けや孫請けの制作現場に立ち会わせ、水中に目を凝らしてしかるべきである。獲物は「舟の上」、責任は「水の中」ならば、こんな楽な商売はない◆関西テレビがフジテレビ系列で流している全国ネット番組のうち、問題の「発掘!あるある大事典2」は半年(2006年度上期)で推定30億円のCM収入があったといわれる。水中監視にかかる費用など、何ほどでもあるまいに◆菅総務相は孫請けに責任を転嫁した報告書を厳しく批判し、再報告を命じた。「舟の上」の言い分を鵜呑みにしないのは当然である。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070209ig15.htm