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2007年02月06日(火) 00時00分

「ケータイで小説」を切り拓く読売新聞

 いつでも、どこでも読める。物語は画面の中でテンポ良く進む……そんな携帯小説が人気を集めている。「新潮ケータイ文庫」に発足当時から携わった中村睦さんに聞いた。

本は読まなかった「読者層」の発見

中村 睦  なかむら・むつみ
新潮社出版部・文芸第2編集部
東京生まれ。1990年入社後、出版部、「週刊新潮」記者、文庫開発を経て、2002年より「新潮ケータイ文庫」を担当、現在に至る。編集から各携帯キャリアとの交渉までこなし、現在はケータイ小説の人気作家・内藤みかや、ベストセラー「水曜の朝、午前三時」 の蓮見圭一などの連載を担当。
—— 「新潮ケータイ文庫」とは、どういうものですか。

中村 携帯電話で小説が読める月額会員制のサービスです。常時40作品ぐらいあり、このうち約5作品が書き下ろしで蓮見圭一さんの『八月十五日の夜会』や、梶尾真治さんの『あねのねちゃん』などがあります。このほか、月刊の『小説新潮』で紹介した作品を月遅れで掲載したり、旬の若い作家や夏目漱石、太宰治などの有名作家ものを出したりしています。auとソフトバンク、NTTドコモの3社合わせて、会員は約3万人です。

—— 読者層や利用シーン、人気ジャンルの特徴は何ですか。

中村 作品は、土日を除き毎日1200字から2000字分ぐらい更新されます。当初は通勤電車の中や駅での利用を想定しましたが、実際には午後11時から午前2時までのアクセスが、最も多い。ベッドに入ってから、電気を消してバックライトで読んでいる方も少なくありません。

 ジャンルは短編、長編、エッセイや料理のレシピなど。文芸にとらわれずにやっていますので、音声もあります。主な読者は女性なので、恋愛小説が人気ですね。中でも、「ケータイ小説の女王」の異名を持つ内藤みかさんが人気で、1月末から始まった書き下ろし作品「この世の隅」が、アクセスを伸ばしています。

—— そもそも携帯で本を読む、というサービスを考えついたのはなぜですか?

中村 新潮ケータイ文庫の開始は2002年です。ベテラン・中堅作家の登場する媒体はあっても、新人の登竜門となる雑誌が少ないのが、当社でした。そこで、作品の発表の場として、ケータイで新作を紹介するようにしたのです。「携帯で本なんか読まない」という声は、社内でもありました。しかし、ふたを開けてみると「携帯なら読む」読者層がいたのです。しかも、有名作家であろうと読みづらければアクセスは伸びない。その一方、無名の作家でも、面白ければアクセスは伸びることもわかりました。例えば江戸の吉原遊女ものでデビューした宮木あや子さんがよい例でした。ファンレターも大変多かったのです。これを契機に、携帯を「作品生産するための媒体」という会社本位の見方から、読者に合ったものを提供するものと、考えを改めました。今は「この作家、誰?」という人も、新人賞を取って間もない人も、積極的に載せています

—— 書き下ろし作品と既存の作品とで著作権処理は違いますか。

中村 ある作品が特に電子媒体向きなのか、書籍にしても売れるのかは、出来上がってみないと分かりません。それならと、堅苦しい契約を最初はせずにいます。一方、既存作品を載せる場合は「二次利用」なので、契約が必要になります。当初は許可をいただくのに難渋しましたが、最近は作家の方たちも携帯電話をお持ちで、理解が早いです。

—— 携帯ならではの特別な工夫はありますか。

中村 サドンデス(「突然の死」という意味)小説というのをやりました。3週連続で、読者のアクセス数が前週に比べ10%落ちたら、たとえ作品の途中でも連載を終了する、という方式です。内藤みかさんの「いじわるペニス」という作品で、これを試みたことがあります。内藤さんは、作品にスピード感があり、読者に「次はどうなるんだろう」と思わせながらも、そこで終わらせる工夫もできる。結果的に連日1万という大きなアクセス数になりましたが、「2回目やりますか」と聞いたら、「もう、いいです」と。やはり作家さんにはキツイですよね。

http://www.yomiuri.co.jp/net/interview/20070206nt0a.htm