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2007年02月04日(日) 00時00分

障害児の未来、一瞬で 還付かたる「振り込め」 500万円被害 中日新聞

 振り込め詐欺に遭った名古屋市中村区の40代の女性が1月下旬、大量の睡眠薬を飲み、自ら命を絶とうとした。幸い一命は取り留めたが、知的障害がある息子の将来のために、こつこつと貯金してきた500万円が卑劣な犯行で一瞬に消えた。自殺を図ったのはそのショックからだった。振り込め詐欺は近年、手口が複雑、巧妙化。女性の家族は「これ以上、悲しむ家族が増えてほしくない」と訴える。

 ◇自責の母、自殺図る

 家族によると、1月中旬、女性の自宅に一本の電話がかかってきた。「医療費の還付がある」。女性は一昨年、がんの手術を受けたこともあり、還付を疑わなかったとみられる。女性は相手の指示で現金自動預払機(ATM)に行き、言われるままに機械を操作。還付を受けたつもりが、複数の銀行口座にあった計約500万円を次々と指定口座に振り込んでしまったという。

 女性が通帳の残額を確認し、だまされたと気づいたのは同月下旬。その日、会社員の夫に「家族をよろしく」とメールを打ち、直後に睡眠薬を大量に飲み、自殺を図った。

 幸い発見が早く、救急車で病院に運ばれたため助かった。しかし、意識が回復しても「死にたい」「殺してください」「私の責任」と繰り返し、窓から飛び降りようとしたり、コードで首を絞めようとしたりした。夫と高校生の長女が数日間、仕事や学校を休んで寝ずに監視したという。

 被害に遭ったのは、長男を建設予定のグループホームに入所させるため、建設の分担金や入所費用に充てるため夫婦で長年ためてきた金だった。今回の事件で、ホームの話は白紙状態になってしまったという。日ごろから「私たち親がいなくなった時のために」と話していた女性の落胆は大きかった。

 夫は「妻の命があったことだけが、せめてもの救い。(事件で)家族がめちゃくちゃになってしまった」と憤る。長女も「(事件以来)泣き続け、最後はもう涙も出なくなった。ここまで追いつめた犯人が憎い」と声を絞り出した。

 家族は、中村署に被害届を提出。同署は詐欺容疑事件として捜査に乗り出した。

 ◇お金戻る手続きのはずが ATM慣れぬ中高年を標的

 医療費や税金の還付名目の振り込め詐欺は昨年ごろから各地で起きており、愛知県内では昨年末から急増。昨年10月から今年1月末までに40件発生し、うち18件は今年に入ってから。被害は、中村、中、東区など名古屋市内に集中しており、被害総額は約5000万円に上る。

 県警や中村署によると、犯行の手口は次の通り。税務署や国税局など公共機関を名乗って電話してきて、医療費や税金などの還付があると伝え、キャッシュカードを持って近くのATMに行くように指示する。「0120」(フリーダイヤル)や「03」などで始まる電話番号を指定して被害者にATM前から電話をかけさせ、機械の操作を指示する。被害者は一連の操作で還付が受けられると思っているが、実際は預金を指定口座に振り込ませられるという。ATMの操作に慣れていない中高年に被害が多いのが特徴だ。

 犯行に使用する携帯電話や振込口座を他人名義にするなど手口は巧妙化。最近では発覚を遅らせるため、ATM操作が終わると発行される、口座番号などが記録された明細書を廃棄するように被害者に命じるという。

 県警は「還付の手続きで、税務署員がATMの操作を求めることはない。ATMに行く前に警察に相談してほしい」と注意を呼びかけている。


http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20070204/mng_____sya_____009.shtml