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2007年02月03日(土) 01時31分

2月3日付・読売社説(1)読売新聞

 [被害者参加制度]「導入には慎重な議論が必要だ」

 法廷が報復の場になるようなことはあってはならない。そのための議論は、十分尽くされたのだろうか。

 犯罪被害者や遺族が裁判の当事者として法廷に立てるようにする「被害者参加制度」について、法制審議会刑事法部会が導入に向けた制度要綱を発表した。

 この制度が実施されると、被害者らは裁判官が許可した範囲内で、法廷で被告人に質問したり、証人を尋問したりできるようになる。検察官と相談の上、独自の求刑意見を述べることも可能だ。

 犯罪被害者や遺族らは、事件の当事者でありながら、被告に対する裁判では長い間、蚊帳の外に置かれてきた。

 2000年の刑事訴訟法改正により、希望すれば、法廷で意見陳述ができるようになったが、被告人や証人を直接問いただすことは許されていない。

 参加制度はそれを可能にするものだ。ドイツやフランスではすでに実施されている。日本でも、被害者団体などが強く導入を求めていた。だが、裁判官の訴訟指揮権が弱いなど、独仏とは司法制度が基本的に異なる日本で、この制度はきちんと機能するのだろうか。

 最も心配なのは、法廷に被害者の感情が持ち込まれることで、審理が混乱しないかということだ。証拠に基づかない発言や、許された範囲を超えた被告人質問や証人尋問が行われる恐れもある。

 制度要綱では、被害者らはまず検察官に申し出たうえで、質問や尋問を行うということになった。しかし、検察官は感情的に高ぶった被害者や遺族に適切に対応できるのか。それを危ぶむ声は現役の裁判官からも上がっている。

 殺人や強盗致傷事件など、被害者参加制度の対象とされる事件の多くは、一般市民が審理に加わる裁判員裁判の対象事件でもある。被害者らの感情的な発言を前にして、法律の専門家でない裁判員が冷静な判断を下すことができるかという問題もあるだろう。

 今回、「付帯私訴制度」についても要綱が示された。刑事事件と同じ裁判官のもとで、被害者側の損害賠償請求についても審理するものだ。従来の損害賠償訴訟では、被害者側は一から証拠集めをしなければならなかったが、その必要がなくなる点などで歓迎すべき制度だ。

 だが、刑事裁判では無用な損害の算定などを意識した弁護が行われ、公判が長期化する心配も指摘されている。

 犯罪被害者への配慮は欠かすことができない。だが、その裁判参加などは、日本の刑事司法を根底から変えるものだ。導入には、慎重な姿勢が求められる。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070202ig90.htm