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2007年02月03日(土) 15時30分

「カビ臭い」消え、水道水ボトル好評…自治体積極PR読売新聞

 浄水技術の進歩で品質が向上した水道水をPRしようと、わざわざペットボトルに詰めて販売する自治体が増えている。

 水道水の消費量は減少傾向にあり、今後、一部の自治体では料金値上げも避けられない。効率化を進める欧州などでは水道事業を民営化する動きも相次いでいる。水道は公営事業として存続できるのか——。

 東京駅構内にある「東京みやげセンター」。店頭には500ミリ・リットルのペットボトルに水道水を詰めた「東京水」が並ぶ。1本100円。店員は「24本入りのケースごと買っていく人もいます」と話す。

 都が「東京水」を発売したのは2004年11月。現在は都庁舎や上野動物園などで販売している。「PRが目的のため、収支はトントン」というが、今年度は前年度の倍近い2万7000本を既に販売。半年前からは通信販売も始めた。

 かつて都の水道水に対しては「カビ臭い」などの苦情が絶えなかった。しかし都は1992年以降、オゾンや生物活性炭でアンモニア臭などを除去する「高度浄水処理」を各浄水場に導入。その後、苦情はぴたりと止まったという。

 日本水道協会によると、水道水や水源地の水をペットボトルや缶に入れてPRしている自治体の水道局は現在、全国に100近くある。うち37の自治体が都のように販売しており、「さっぽろの水」(札幌市)や「あぁ!関露水(かんろ)」(山口県下関市)などは売れ行きも好調だ。

 ただ、水道水全体に占める飲料水の割合は1%未満とみられ、ボトル詰めが売れても会計が潤うわけではない。それでも、PRに躍起になるのはなぜか。

 水道水の全国の年間総給水量は97年の約171億立方メートルをピークに減少に転じ、03年は約164億立方メートル。洗濯機の節水機能の向上などが理由で、今後は人口減により、さらに給水量は減る見通しだ。

 一方、高度成長期に建設した水道施設が交換時期を迎え、各自治体では改修費の増大に頭を抱えており、料金を値上げせざるを得ないケースが増えることも予想されている。「水道の質に不満を持たれたままだと、値上げなど到底できない」。関東地方の自治体幹部は明かす。

 日本では「公営」が当たり前の水道事業だが、「民営」が主流の先進国もある。フランスでは19世紀から民間事業者が都市部の水道を運営。イギリスでも89年、10の公社が完全民営化された。東南アジアや南米では、欧州企業が水道事業に次々に進出している。

 関西地方の政令市の水道局課長は「日本でも民営化されるのでは、という不安はある。『民営化した方がよい』という声を抑えるためにも、イメージを上げる努力をしている」と話す。

 水道事業に詳しい太田正・作新学院大学教授(地方公企業論)は、「おいしくなった水道水をPRするのは重要だが、水道事業への信頼アップにまでつながるかは疑問だ。今後、規模の小さい自治体の水道局などで民間委託は避けられないだろう」と指摘する。(金来ひろみ、前田遼太郎)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070203it06.htm