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2007年02月02日(金) 00時00分

お産の現状改善に“猶予” 無資格助産事件 東京新聞

 横浜市瀬谷区の産科婦人科「堀病院」の無資格助産事件は一日、横浜地検が堀健一元院長(79)と看護師ら十一人を不起訴(起訴猶予)処分とし、一応の決着をみた。だが堀病院では組織ぐるみの違法行為が常態化していただけでなく、危険性を伴うとされる「人工破膜」を看護師らに行わせていたことも判明。神奈川県警の捜査を批判した日本産婦人科医会の幹部でさえ驚く「悪質さ」だったが、なぜ地検は起訴猶予という判断で落ち着いたのか。 (横浜支局・小川慎一、中沢穣、石川智規)

 県警や地検の捜査で同病院は、二〇〇三年十二月から〇六年八月の二年半で、妊婦約七千五百人に看護師らの無資格内診を行い、うち約千人については、出産まで医師や助産師による内診が一度も行われていなかった。

 さらに、出産促進のため、胎児を包む卵膜を手や器具で破る「人工破膜」も無資格の看護師らの手で普通に行われていたことも明らかになった。人工破膜は胎児の頭を傷つける恐れなどがあるため、出産現場に携わる都内の医師は「リスクが大きく医療行為に近いので、看護師には絶対やらせない」と話す。

 日本産婦人科医会は産科医と助産師が不足するなかで「無資格内診で刑事責任を問われるとすれば、産科医療の現場に深刻な打撃を与える」と県警の捜査を非難した。だがその医会幹部でさえ、地検から堀病院での「人工破膜の話」を伝え聞いたときは「ここまでひどいとは」と絶句した。

 堀元院長は当初「看護師の内診は必要悪」と主張。過去の無資格助産事件と比べても、違法性の度合いが際立ち、地検側も略式起訴などを視野に捜査を進めていた。しかし、一方で堀病院が年間約三千件のお産を扱うなど産科医療で実績を残していることや他の医療機関でも広く無資格内診が行われている実態があり、「このままでは狙い撃ちだ。ほかの病院も全部捜査しろということになる」「厚生労働省が告発すらしていないのに形式犯でやるのはどうか」と検察幹部に躊躇(ちゅうちょ)する声も少なくなかった。

 地検も堀病院のケースで「実際に内診による危険はなかった」とし、産科医不足や助産師の偏在など構造的な問題の解決のために、同省や医会が議論や施策を進めている「過渡期」で、刑事罰を与えることは妥当ではないと最終判断した。

 しかし、「陣痛促進剤による被害を考える会」の出元明美代表(54)=愛媛県=は批判する。

 「堀病院への苦情は会に多く寄せられており、危険な状態は表ざたになっていない。検察は起訴すれば産科医療の現場に混乱を招くという怖さがあったのだろう」

 医会幹部の一人は地検の処分にこう感想を漏らした。「今後、無資格内診のような問題を野放しにしておけば、いつかまた捜査が入り、摘発される。今回のケースはわれわれへの“猶予”だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20070202/mng_____kakushin000.shtml