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2007年01月30日(火) 00時00分

納豆騒動にみるフードファディズムとは 東京新聞

 納豆のダイエット効果を紹介したテレビ番組のデータねつ造問題は、波紋を広げている。レタスを扱った過去の放映にも疑惑がでた。「食と健康」の問題は関心が高く、度々ブームが起きてきた。ある食品に気まぐれに人々の興味が集中することを「フードファディズム」と呼ぶ。そのメカニズムと危険性は−。 (渡部穣)

 「在庫はずっと空。『このまま売れれば蔵が建つね』って仲間で話して喜んでいたが、後味悪い。テレビにだまされても、納豆にだまされたとは思わないでほしい」

 千葉県内のある納豆メーカーの関係者は、今回の騒動をこう振り返る。発端は今月七日、フジテレビ系列関西テレビの人気番組「発掘!あるある大事典2」で納豆のダイエット効果が放送され、翌日から、全国の多くのスーパーの店頭から納豆が消えた。

 この納豆メーカーでは、六時間勤務を早朝五時から午後八時まで増やし対応した。それでも「品物が足りない」と催促が続いたという。

 食品に関するこうした現象を「フードファディズム」(Food Faddism)と呼ぶ。群馬大学の高橋久仁子教授(食物学)が九年前に初めて紹介した。「Fad」は英語で「熱狂的で気まぐれな流行」の意味で、食品や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価したりして、消費者が熱狂することをいう。

 同様の現象は、過去にも一九九四年の野菜スープ、九五年のココア、二〇〇五年の寒天、〇六年の白インゲン豆などで起きた。テレビなどメディアでその健康効果が紹介され、ブームになった。

■「ばかばかしい」が「無視できぬ」

 テレビを発端に頻繁に繰り返される同現象は、小売業では「特需」として定着しているようだ。ある大手スーパーの担当者は「仕入れにテレビ番組の影響は無視できない。幹部は、食品を扱う今回のような番組を毎回チェック、必要なら毎週月曜日の朝礼で仕入れの指示を出す。ココアや寒天の時の例があるからね。ばかばかしいと思っても無視できない」と話す。

 その内容をうたい文句に使えるよう、小売業界向けに放映後にこうした情報をまとめて流す専門業者もある。メーカーでつくる全国納豆協同組合連合会も、今回の放映による品薄状態に備え、放映前にメーカー二百九十五社に納豆が取り上げられるという情報を流した。

 同教授によると、フードファディズムは(1)えり好みできる過剰な食料供給(2)過剰な健康志向(3)食に対する漠然とした不安や不信(4)メディア情報をうのみにしてしまう未熟なメディアリテラシー(情報を吟味する能力)−の四条件がそろうと発生する。今回も「ダイエット」がキーワードだった。「四条件が今の日本にはすべてそろっている」と指摘する。

 一部で「フードファシズム」と誤って広がっているが、同教授は「ファシズムでもいい。似たような意味だし、その方が分かりやすいかもしれない」とも言う。

 問題はある。TBSの健康情報番組の「白インゲン豆ダイエット」問題では、試した人の下痢など健康被害が九百件以上発生、入院患者まで出した。高橋教授は「場合によって食生活を混乱させ、健康被害をもたらし、詐欺的商法に悪用される」と警鐘を鳴らす。

 その上で「娯楽番組はそれとして見るようにして、『またばかなことをやってるな』って笑い飛ばせるぐらいの余裕が消費者には欲しい」と消費者にも注文をつける。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070130/ftu_____kur_____001.shtml