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2007年01月30日(火) 00時00分

食番組の病理(上) 視聴率狙いの捏造体質読売新聞


関西テレビは問題発覚後の21日夜、捏造実験の実態を伝え、謝罪する番組を放送した(フジテレビの放送から)

 フジテレビ系「発掘!あるある大事典2」の捏造が次々と明らかになっている。背景に何があるのか。テレビにはんらんする「食」を通した健康、ダイエット情報の危うさを検証し、捏造の病巣にメスを入れる。

ディレクター、関係者の気に入る番組作りに脂汗

 「こんな絵(映像)じゃ意味がない」

 「体をひねる運動にして、それに合わせたコメントをとれ!」

 関西テレビ制作の「発掘!あるある大事典」の第1シリーズに携わったスタッフの一人は、「体脂肪を燃焼させる体操」の実験映像を関係者で試写した際、制作の主導権を握る日本テレワーク(本社・東京)のプロデューサーや構成作家たちから、こう命じられた。6年前のことだ。

 「血液浄化作用がある」という食品を取り上げた時には、被験者8人すべてに改善効果が表れた。本来なら歓迎すべき結果だが、「効果が出ない被験者がいないと、逆に信頼性がない」と、ディレクターは頭を抱えたという。結局、故意に「2人は効果なし」ということにして放送した。

 「試写会では、スポンサーの担当者を含む20人ぐらいに囲まれるから、ディレクターは脂汗をかく。視聴者でなく、いかに上の人たちが気に入る内容を作るかなんです」。このスタッフは、当時をこう振り返る。

 健康に関する運動や食品を取り上げ、実証実験をして効果を強調するのが「あるある」の特徴。だが、実験結果などを都合のいいようにねじ曲げる体質は、「納豆ダイエット」「レタスで快眠」「味噌(みそ)汁で減量」と、次々と明らかになる捏造(ねつぞう)へと結びついていく。

 こうした捏造体質は、しかし、「あるある」だけに限らない。

 「番組で取り上げるのは身近な食品がいい。それを使って、明らかな実験結果が出た方が面白い。分かりやすく伝えようと、(食品の効用を説く)学説や論文からずれた内容で放送したこともある」と証言するのは、別の情報番組の元プロデューサー。「思うような実験結果が出ない時、実験の失敗は伝えず、論文のみを紹介するケースもあった」というディレクターもいる。

 健康にいい、ダイエットに効くという食品を扱えば、視聴者の反響は大きく、視聴率も稼げる。つまり、企画に困った時の格好のネタであり、カンフル剤にもなる。ある民放キー局のプロデューサーは、「情報番組に限らず、テレビ制作者としては、自らブームを作るのが快感なんです」と言ってはばからない。

 ダイエット食品が特集されると、視聴率が跳ね上がるのは確かだ。ビデオリサーチによると、「あるある2」の平均視聴率(関東地区)は約15%。この数字だけでもゴールデンタイム(午後7〜10時)で十分に合格点だが、2005年6月の「寒天で本当にヤセるのか!?」は22・1%、04年5月の「お酢を飲むとヤセるのか!?」は18・4%を記録した。

 食品の場合、番組の内容を信じた視聴者が踊らされ、社会現象につながることも多い。

 「あるある」からは、寒天や山芋、酢、スキムミルクなどのブームが生まれた。日本テレビ系の「おもいッきりテレビ」でココアを「万能薬」として取り上げた時には、メーカーの在庫が底をつく騒動になった。

 単なるブームだけでなく、実際に健康被害に結びついたケースもある。昨年5月、TBS系の健康情報番組「ぴーかんバディ!」で、白インゲン豆を使ったダイエット法が紹介され、それを試みた視聴者が激しい下痢や嘔吐(おうと)などの症状を訴える事態が相次ぎ、全国で120人以上が入院した。捏造ではないが、調理法の説明が不十分だったのが原因だ。

 食生活ジャーナリストの山本謙治さん(35)が指摘する。「すべての食物には、体に良い面も悪い面もある。ところがテレビ番組は、一つの良い結果だけに焦点を絞って見せる傾向がある」

 テレビを見ただけで、簡単に手に入る健康、簡単に効くダイエット。そんなうまい話はない。

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/tv/20070130et04.htm