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2007年01月30日(火) 23時16分

新OS「ビスタ」、静かな船出 ネット全盛で支配力低下朝日新聞

 米マイクロソフト(MS)は30日、パソコン用新基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ・ビスタ」を全世界で発売した。「楽しさ」を強調して消費者に買い替えを促す考えだ。しかし、利用者の関心はインターネットを通したウェブ上の新サービスに移り、テレビなどの高性能化もあって消費者の受け止めは冷静だ。OSの支配力が低下する時代の静かな船出となった。

ウィンドウズ・ビスタの発売を祝って鏡開きをするマイクロソフト日本法人のダレン・ヒューストン社長(中央)ら=30日午前、東京都内のホテルで

「ウインドウズ」の歴史

 カウントダウンとともに発売が宣言されると、夕闇が迫るタイムズスクエアのビル群に掲げられた広告用大画面に新CMが一斉に映し出された。

 MSがニューヨーク市内で29日夕(日本時間30日未明)開いた記念イベント。ビル・ゲイツ会長は「写真や動画、音楽など全コンテンツがデジタル化された時代のカギを握るOS」と強調。派手な演出で、社運をかけた商戦が始まった。

 パソコンを家庭で使う家電・情報機器の中核に据え、低迷するパソコン市場の底上げを狙う——MSが描くシナリオだ。安全対策や娯楽性を高め、他のデジタル機器との連携を強調。3D映像を駆使し、写真や動画などを保存・編集する機能やリモコン操作の多用などにこだわった。

 同時発売した業務ソフト「2007オフィスシステム」と合わせ、07年中に2億本以上の出荷を目指す考えだ。

 しかし、MSを取り巻く環境は厳しさを増している。自ら切り開いたブロードバンド時代がネットを介した新サービスを生み、皮肉にもライバルを増やしてしまったからだ。超小型演算処理装置(MPU)を供給する米インテルと組んでパソコンの基幹部分を握り、業務ソフトを組み合わせて販売する事業モデルで覇権を握ってきたが、インテルが米アップルのパソコン「マッキントッシュ」にもMPUを提供するなど、MSとインテルの「ウィンテル」連合にもほころびが見える。

 ビスタで機能を強化した検索分野では米グーグルが台頭。アップルも音楽・映像配信で盛り返し、6月には米国で携帯電話事業にも参入する。

 ●客は冷静「機能見定めて」

 30日未明、東京都内の家電量販店での発売イベントでは、12年前の「ウィンドウズ95」発売時ほどの混雑はなかった。秋葉原にあるヨドバシカメラマルチメディアAkibaのパソコン売り場でも、「機能を見定めてから判断したい」という冷静な客が多いという。

 調査会社ガートナージャパンの蒔田佳苗・主席アナリストは「ビスタを使うと何が変わるのか、消費者に利点が十分伝わっていない」と厳しい。米メディアにも「価値あるソフトだが、ありきたりだ」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)との指摘がある。

 MSは、XPの支援期間延長を消費者の声に押される形で決めた。「MSが自信を持ってきた切り替えサイクルへの消費者の不満の表れ」(IT企業関係者)との見方もある。

 06年のパソコン国内出荷台数は前年比3%減の1233万台と4年ぶりに減少した。買い控えもあったためパソコンメーカーなどの期待は高いが、新OSが消費者に買い替えを促すにはしばらく時間がかかりそうだ。

http://www.asahi.com/business/update/0130/145.html