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2007年01月30日(火) 22時26分

行政の腐敗 目を光らせ朝日新聞

 県オンブズマンネットワーク代表幹事を務める服部寛一郎さん(69)は、逮捕状が出ている元県職員の退職金の返還と、県議OBの親睦(しん・ぼく)団体への補助金返還を求めた住民監査請求が退けられたため、近く仲間と一緒に住民訴訟を起こす。これまで数々の監査請求や住民訴訟を通じ、行政の無駄使いをチェックしたり、不正を暴いたりしてきた。その思いを聞いた。(吉野慶祐)

 「社会正義を実現しようとか、大仰なことは考えていないんです」
 ひょんなことから市議になった。すると、目の前に腐敗した行政があった。それに対し「おかしい」と言ってきただけ、という。

 29歳の時、勤めていた国鉄の先輩が病気で市議選立候補を断念。代わりに推され、当選した。以来、活動の場を市議会から県議会、オンブズマンと変えながら、官の癒着や不適切な公金の支出を指弾してきた。

 数ある不正追及の中でも印象に残るのが、天野進吾・静岡市長(当時)の疑惑追及という。

 92年、市長が職務上利害関係のある採石業者と海外旅行に向かうのを知り、帽子を目深にかぶって静岡駅で張り込んだ。数日後、1人で現れた市長を名古屋空港まで尾行し、業者と落ち合うのを写真に収め、市議会で示した。

 「そこまでするのが正当なオンブズマン活動か、疑問もある。ただ、俎上(そ・じょう)に載せられる身になると、いい加減な調査ではかなわないでしょう」

 持病の糖尿病が悪化し、99年に県議を引退。だが、4年前に始めたばかりのオンブズマン活動は辞められなかった。

 「県政には、市政レベルと段違いの闇があることを垣間見てしまったから。やるなら徹底的に続けようと」

 一時は裁判を15〜16件抱えた。駐車場の車がパンクしていたり、深夜の無言電話が続いたりしたこともある。今年、古希を迎えるが、当分この道を歩むつもりだ。

 「おこがましいけど、32年間、税金で食べさせてもらったことに感謝している。だから納税者が損することは、たとえ1円たりとも見過ごせないんですよ」

    ◇

 天野市長の張り込みに行く日の朝、がんと闘っていた妻は声をかけた。「ちゃんと調べて下さいよ、お父さん」。1カ月後、49歳で他界した。

 妻に孝行できなかったこと、一人息子(28)の子育てを任せきりにしたことを後悔している。息子は東京の大学に進学後、実家から足が遠のいた。

 数年前、自宅に1通の作文が届いた。ある会社の就職試験で息子が書いたものを、社長が送ってくれた。そこには、こう書かれていた。

 「父は家のことをほったらかしにした。だけど、『正しいことは正しい』と独りでも頑張り続ける父を、僕は尊敬している」

 ここまで話すと、めったに人前で見せないという涙が止まらなくなった。

 略歴 37年、焼津市生まれ。静岡高校卒業後、国鉄の機関車乗務員に。東海道線で東京—浜松間を往復していた67年、静岡市議選に当選。以来、連続7期、静岡市議を務める。当初は共産党に属したが、幹部を批判して除籍、以来無所属に。95年、無投票選挙を阻むため県議選に静岡市選挙区から出馬、当選。在任中に「県民オンブズマンの会」代表としてオンブズマン活動を開始。99年、県議1期限りで議員活動から引退。現在、県オンブズマンネットワーク代表幹事。

 オンブズマン 「護民官」や「代理人」を意味するスウェーデン語。行政への苦情を受けつけ、原因の究明や不正の監視・告発を行う人のこと。オンブズマン制度は世界各地で導入され、日本では民間団体が中心となり、官官接待やカラ出張の追及などで名を上げた。93年に旗揚げした仙台市民オンブズマンが、開示請求した公文書の照会から不正を見つける手法を確立した。オンブズマン同士の情報交換や共同研究を行う「全国市民オンブズマン連絡会議」に、県オンブズマンネットワークをはじめ全国84団体が加盟している。

http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000000701300004