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2007年01月29日(月) 20時42分

「NHKが番組改変」 200万円賠償命じる 東京高裁朝日新聞

 NHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKなどに総額4000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないよう番組を改変した」と指摘。「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」と述べ、NHKに200万円の支払いを命じた。NHK側は同日、上告した。

勝訴の判決を聞いた原告の西野瑠美子さんは、集まった支持者らに深々と頭を下げた=29日午後2時すぎ、東京・霞が関の東京高裁で

東京高裁でのNHK番組改変控訴審判決後、勝訴を喜ぶ原告の(左から)東海林路得子さんと西野瑠美子さんら=29日午後2時すぎ、東京・霞が関で

 判決は、そのうち100万円について下請け制作の「NHKエンタープライズ21」(当時)と孫請けで取材にあたった「ドキュメンタリージャパン」(DJ)にも賠償責任があるとした。NHKに編集の自由を認め、DJのみに100万円の賠償支払いを命じた一審・東京地裁判決を変更。NHKにも改変行為と、その内容を説明する義務を怠ったことに不法行為責任があると認めた。

 訴えていたのは「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネットジャパン)。旧日本軍の性暴力を民間人が裁く「女性国際戦犯法廷」を00年12月に共催した。NHK教育テレビで01年1月30日に放送された「ETV2001 問われる戦時性暴力」が「法廷」を取り上げた。

 訴訟では、取材を受ける側に番組内容に対する「期待権」が認められるかどうかが大きな争点だった。南裁判長はまず、「取材者の言動などにより期待を抱くやむを得ない特段の事情がある場合、編集の自由は一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼は法的保護に値する」と、一審判決と同様の一般判断を示した。

 その上で、DJが本来は取材対象者には示さない「番組提案表」を示した点などを重視。バウネット側が、「法廷」をつぶさに追うドキュメンタリー番組になると期待してもやむを得ない特段の事情があったと認めた。

 さらに、判決は、01年1月26日に松尾武・放送総局長と野島直樹・総合企画室担当局長が立ち会った試写後の内容変更について、「当初の趣旨とそぐわない意図からなされた編集行為で、原告の期待と信頼を侵害した」と違法性を認めた。

 また、放送直前の同月29日に松尾氏らと面会した安倍晋三官房副長官(当時)が「公正・中立の立場で報道すべきではないか」と発言したことなどを受け、「その意図を忖度して指示、修正が繰り返された」とした。

 ただ、政治家が直接に指示や介入したとの原告側の主張については、「認めるに足りる証拠はない」とした。

 〈キーワード:期待権〉将来、一定の法律上の利益を受けられることを希望したり期待したりできる権利。侵害されれば不法行為となるが、どの程度法的保護の対象になるかは、期待権の内容や事案による。医療過誤訴訟では、患者が期待した適切な治療を怠った場合に「救命期待権」の侵害が認められ得る。再雇用の期待を抱かせる説明をした雇用主が契約更新をしなかった際、「更新期待権」を侵害したとして賠償を命じられた例もある。

http://www.asahi.com/national/update/0129/TKY200701290245.html