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2007年01月27日(土) 00時00分

差別の現実 甘くない 実体験の啓発ビデオ朝日新聞

 部落差別廃止を訴え、県内外で講演活動をする阿波市市場町の会社員中倉茂樹さん(29)の実体験をもとにした人権啓発ビデオ「ぬくもりを感じて」(メディア総合研究所制作、30分)が完成し、全国で発売されている。「部落差別は自分たちの代で終わりにしたい」と、年70回以上の講演をこなす。その中倉さんが生まれ育った吉野川市は、ビデオの発売を記念して2月3日、上映会を兼ねた講演会を開く。

 (加藤順子)

 中倉さんは、鴨島商業高校に入学するまで、自分自身が被差別部落の出身だとは知らなかった。同校で人権問題に熱心に取り組む先生と出会い、勉強会にも参加。3年生の時、人権集会で「部落民宣言」をした。卒業後は香川県善通寺市の四国学院大学に進学し、人権教育について学んだ。

 自身が深刻な同和問題に直面したのは社会人になってからだという。友人の結婚式をきっかけに知り合った女性(28)と付き合うようになり、結婚を約束した。一昨年夏のことだった。しかし、中倉さんが部落出身だとの理由で彼女の周囲からは反対されてしまった。

 そんな2人を励まし続けたのが中倉さんと一緒に活動を続けてきた仲間だった。みんなに勇気づけられ、いくつかのハードルを残しながらも、2人は一緒に生活し、結婚差別とも戦っていくことを決意。昨年7月、婚姻届を提出した。

 10代後半からの経験を通じて中倉さんが実感したのは「人間って温かいなあ」。高校時代、部落民宣言をした直後に取り囲み、「なぜもっと早く言ってくれなかった」「これからも変わらへんよ」と言ってくれた友人たち。常に励ましてくれ、自分だけでなく妻にまで、あえて苦労を抱えながらも結婚する決意をさせてくれた仲間たち。中倉さんは、そんな自分の周りの人たちを「誇り」だという。

 ビデオは結婚までの約3カ月間を中心に撮影し、実は小学生時代にもひどいいじめを受け、後にそれが部落差別だったと知ったと語る中倉さんの講演のシーンなどを通し、幼少時代から結婚に至るまでの歩みを綴(つづ)っている。

 タイトルは「ぬくもりを感じて」。人権教育・啓発用の教材として各方面で活用されている「部落の心を伝えたい」シリーズの第8弾として制作された。

 今も妻の家族とは会えていないという。でも、妻の友人たちは家に遊びに来る。妻自身は今では実家と連絡をとっている。「いつかはきっと分かってもらえる。一歩ずつです」と、中倉さんは考えている。

 そうした現実を踏まえ、今回のビデオは、ハッピーエンドになることが多かったこれまでの同和教育の教材とは違ったものになった。現実は甘くないことを知ってもらうのがねらいだ。

 ビデオの発売と、郷里での講演会について、中倉さんは「悪いことをしてないんだから、堂々と生きていることを見てほしい。部落差別は、自分の子の時にはなくなっていてほしいという願いと、支えてくれた仲間への感謝の気持ちを伝えたい」と話す。

 講演会は2月3日午後1時半から、吉野川市山川町のアメニティセンターで。問い合わせは同市人権課(0883・22・2229)へ。ビデオに関する問い合わせはメディア総合研究所(072・757・7746)まで。

http://mytown.asahi.com/tokushima/news.php?k_id=37000000701270003