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2007年01月27日(土) 00時00分

大野病院事件 被告、罪状を否認朝日新聞

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で26日、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医加藤克彦被告(39)の初公判が福島地裁(大澤廣裁判長)で開かれた。加藤被告は「適切な処置だった」などと述べ、起訴事実を否認。公判後の記者会見でも、医療行為としての正当性を繰り返し主張した。

 −手術の正当性主張 事件後初めて公の場に−

 「患者さんのご冥福を心からお祈りし、ご遺族に心よりお悔やみ申し上げます」

 加藤医師は初公判終了後に開かれた弁護側の記者会見で、帝王切開手術中に死亡した女性と遺族に対する思いを語り、深々と頭を下げた。

 これまで加藤医師は公の場での発言を避けてきたが、「逮捕からほぼ1年がたち、気持ちの整理もついた。ご声援頂いた医療関係者の方々に元気な所を見せたい」として、会見に踏み切った。

 加藤医師は、全国の産科医から寄せられる支援に対し、「心強く思っております」と述べ、全国的に産科医が減少し、医療現場の負担が増していることについて「今回の事件が一因となってしまった。申し訳なくも感じています」と話した。

 この日の検察側の冒頭陳述で、手術後、院長らに「やっちゃった」「最悪」などと話したと指摘された点について、記者から「医療ミスという認識があったのか」と問われると、加藤医師はきっぱりした口調で「ミスをしたという認識はありません。正しい医療行為をしたと思っています」と言い切った。

 争点の一つ、胎盤をはがす際にクーパー(手術用ハサミ)を使用した理由について「その場の状況で適切だと考えた」と説明。「勾留(こう・りゅう)中は取り調べに対し、『クーパーの使用は不適切だった』と言ったが、今はそういうことは考えていない」として、医療行為としての正当性を主張した。

 また、手術前に先輩医師から「応援の産科医を派遣した方がいい」という助言を受けながら、応援を呼ばなかった点について、加藤医師は「タイミングを逸してしまった」と弁明した。

 逮捕以来、産科医としての仕事から遠ざかっているが、「いい勉強の機会ととらえたい」と述べた。「産科という学問は好きですし、婦人科の患者さんと話をするのは好きなので、またやりたいという気持ちはある」と話した。

 一方、福島地検側は公判終了後、「我々としても医療関係者が日夜困難な症例に取り組まれていることは十分認識している。しかし、今回の事件は、医師に課せられた最低限の注意義務を怠ったもので、被告の刑事責任を問わなければならないと判断した」とする異例のコメントを発表した。

 −遺族「真相を明らかに」

 亡くなった女性の父親(56)楢葉町在住は初公判直前、朝日新聞の取材に対し、次のように話した。

 私たち遺族は手術室で何が起きていたのか、それを正確に知りたいのです。なぜ加藤医師は、手術の途中で、ほかの医師に応援を頼まなかったのか。なぜ、やったこともない癒着胎盤の手術を強行したのか。娘は、実験台になったようなものじゃないですか。いろいろな疑問について、裁判でぜひ明らかにしていただきたい。

 娘が死んだ04年12月17日夜、遺体に対面しました。娘は歯を食いしばっていた。それを見て、娘はこんな形で死んでいくのが本当に悔しかったんだと思いました。母親として、もっと生きていたかったんだと。あの時、私は、絶対に真相を明らかにするから、と娘に誓ったのです。

 でも、私が調べ始めたとたん、医師や県の人たちが壁のように立ちはだかり、何が起きたのか全く見えなくなってしまった。捜査が始まるまでは本当に手探りでした。ですから今回、警察には大変感謝しています。

http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000701270004