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2007年01月23日(火) 22時09分

長野県警は自他殺両面で捜査、民事の判決は「他殺」認定朝日新聞

 長野県塩尻市内の河川敷で02年、燃えた車の内外で男女の遺体が見つかり、同県警が無理心中と他殺の両面で捜査を続けている事件で、死亡した同市の会社員酒井宏樹さん(当時24)の母親が、住友生命保険(本社・大阪市)を相手取り死亡保険金約3500万円の支払いを求めた民事訴訟の判決が23日、長野地裁飯田支部であった。松田浩養裁判長は「第三者による他殺と認められる」と認定、「自殺」と主張して保険金を払っていない同社に支払いを命じた。

2人が寄り添う写真を掲げ、「他殺」の判決までを振り返る原告ら。母親の倫子さん(左)はハンカチで涙をぬぐった=23日午後3時前、飯田市内で

 捜査機関が捜査を継続している段階で、民事判決が「他殺」と認定する異例の展開になった。

 事件は02年10月12日夜、塩尻市の奈良井川河川敷で宏樹さんの乗用車が燃え、車内で宏樹さん、車外で宏樹さんと交際中の東京都の女優の女性(当時24)の遺体がそれぞれ見つかった。女性には複数の刺し傷があった。

 発生当初から無理心中との見方が強く、宏樹さんが契約していた住友生命は「支払い責任開始から2年以内の自殺なので、支払い義務はない」と拒否。母親が「何者かに殺害された」と03年12月に提訴した。

 判決は、宏樹さんの亡くなる直前のメールや電話内容、直前に時計を修理していたことなどの状況証拠を踏まえ、「死の直前まで生活の継続を前提として暮らしていた」と指摘。「突発的に自殺を決意し、交際相手を殺したり、車に放火したりしたと合理的に説明することは極めて困難」とし、「(2人は)何者かに殺害されたと考えるのが自然」と結論づけた。

 住友生命側は、最後の電話から事件発覚まで約1時間というわずかな時間で2人を殺害し逃走するのは不可能だと主張していたが、判決は、犯人が顔見知りの複数犯であれば「2人を拉致か誘い出し、殺害することは容易だった」と判断した。

 母親の倫子(のりこ)さん(51)と父親の覚(さとる)さん(53)は「殺人事件」として塩尻署に被疑者不詳で告訴し、県警に捜査本部設置を求める行政訴訟も起こしたが、却下された。「最後の手段」が生命保険会社の提訴だった。

 住友生命は「判決をまだ見ていないのでコメントできない」とした。

 民事での「他殺」認定を受けて県警は、「判決の詳細はわからないが、民事裁判の結果がどうであれ、無理心中と他殺の両面で引き続き捜査するという方針は今後も変わらない」と話している。

http://www.asahi.com/national/update/0123/TKY200701230311.html