記事登録
2007年01月23日(火) 01時48分

1月23日付・編集手帳読売新聞

 喜劇役者の古川ロッパが東京・帝国劇場でミュージカル「モルガンお雪」に出演したのは1951年(昭和26年)2月である。大入りの盛況に帝劇社長、秦豊吉(はたとよきち)の顔は日に日に険しくなっていく◆ロッパは日記に書いた。「(客の)入りがよくなると機嫌わるくなるのは、いい興行師なり」。客が多ければ多いほど、いい舞台を見せる責任の重さが身を苛(さいな)む。すぐれた興行師とはそういうものだと◆観客の数が劇場の比ではないテレビともなれば、興行師の不誠実はときに罪深い。フジテレビ系の情報番組「発掘!あるある大事典2」が取り上げた納豆のダイエット効果は、データも写真も専門家の発言も、あらかた捏造(ねつぞう)だった◆関西テレビが下請けの下請け、孫請け会社につくらせた番組という。放送後の注文殺到、増産、捏造発覚…大量の在庫を抱えて納豆メーカーは悲鳴を上げ、番組に踊らされた消費者の怒りは収まらない◆テレビの影響力を考えれば険しい顔つきで、蚤(のみ)取り眼(まなこ)で、制作過程を点検して放送すべきものを、「率は金なり」と眼中にあるのは視聴率のみ、肝心の番組内容は下請け任せで神経が行き届かない。テレビ業界の通弊ともいわれる◆多くの人に見られることに、あるいは読まれることに、畏(おそ)れの心を忘れまい。不機嫌な興行師たるべし。自戒をこめて思う。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070122ig15.htm