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2007年01月21日(日) 00時00分

レジ袋有料化でどうなる? 東京新聞

 年間三百億枚も消費されるレジ袋の削減に向け、大手スーパーにも有料化を試みる動きが加速してきた。四月の改正容器包装リサイクル法施行で、大規模事業者にレジ袋などの削減が義務づけられることが背景にある。「レジ袋はタダ」の常識が変わると、どうなるのだろうか。 (山川剛史)

 京都市の平安神宮に近い「ジャスコ東山二条店」。全国チェーンのスーパーとしては初めて十一日からレジ袋の有料化(一枚五円)に踏み切った。

 前日までためらいなくレジ袋をもらっていたという東山区の会社員平井梨桜さん(38)は早速、レジかごと同サイズの六百八十円の布製買い物袋を買った。どっさり食料品を買い込み、「この袋とても便利。自分で詰め直さなくていいし、自転車のかごにもぴったり。レジ袋は無駄にしちゃうから、きょうからはこれね」と浮き浮きした表情で話した。

 もちろん、レジ袋を買った人もいる。近くの病院に通う男性(63)は「きょうは買い物袋を忘れた。年金生活者にとっては五円といえど大切。だけど有料化になったからといって、ほかの店に行くつもりはない。ここは(世界的な環境目標値を定めた)京都議定書の地だよ」ときっぱり。上京区の女子大学生(22)は「コンビニでは袋をもらわないようにしているけど、きょうは荷物が多いから。五円? 高いとは思わない。厚手だからまた使えそうだし、古くなったらごみ袋にします」と話した。

 約一時間に来店した客の買い物袋持参率はざっと六割。通常は約三割といい、有料化の効果は大きそうだ。客からは「高い」「ほかの店に行く」といった声はなかった。

■来客の反応 見守る店側

 一方、二〇〇二年にレジ袋税(未施行)を制定した東京都杉並区では、地元に本社を置く中堅スーパー・サミットの「成田東店」が十五日から三月末まで試験的に一枚五円で有料化を始めた。

 初日、高田浩社長は「不安と期待が相半ば。売り上げ面で犠牲が出るのは覚悟している。この店の持参率は三割で、八十五店平均の二割より高く、成功してくれれば次につながるが…」と客の反応を見守った。

 幼稚園に子どもを送った帰りに立ち寄ったという同区の主婦(34)は「きょうのように袋を忘れたときは買う。お店選びはレジ袋が有料かどうかより、品ぞろえですからね」。ここでも有料化に反発する声は聞かれなかった。

 ジャスコを経営するイオン(本社・千葉市)では、客の反応や削減効果を見ながら年内にも仙台、横浜、名古屋市の一部店舗でも有料化を実施。二〇一〇年には買い物袋の持参率を50%に高めたい考え。サミットも、杉並区での結果が良好なら、有料化の拡大を検討する。ほかのチェーン店は様子見が多いが、四月からは改正法施行で、スーパーに限らず年間五十トン以上の包装容器を出す事業者はレジ袋などの削減義務が生じる。取り組みを怠ると国から店名公表や罰金のペナルティーが科せられる。

 関東学院大学の安田八十五(やそい)教授(環境政策)の試算では、一枚五円の有料化で64%、十円では87%の人が買い物袋を持参するようになるという。イオンなどの試みが順調に進めば、レジ袋有料化が急速に広がる可能性もある。

 生活の中にしっかり根付いた感もあるレジ袋。商品を取り出した後に捨てるより、再利用する人が圧倒的に多いだろう。

 例えば、ごみ出しが便利なようにごみ箱にセットしたり、穴を開けて生ごみの水切り袋にも。犬の散歩時にフンを始末する袋として持ち歩く人もよく見かける。指定のごみ袋が半透明の地域では、中身を見られたくないごみをレジ袋に入れてから出すケースも多い。「もうレジ袋なしの生活なんてありえない」との声も聞かれる。

 記者の場合、買い物袋持参のため家にレジ袋は比較的少ないが、保育園からの通知で子どもには汚れ物入れとしてレジ袋を持たせている。ぬれものが多い浴室脇のごみ箱にもセットしている。たばこの吸い殻を入れるバケツがいっぱいになれば持ち手の部分を縛れて便利なレジ袋が登場する。

 神戸山手大学の中野加都子教授(環境学)は数年前、学生とともに兵庫県尼崎市と大阪府吹田市の計四百二十三世帯にレジ袋の意識調査をした。その結果をもとにこう話す。

 「レジ袋を持参しないという人に理由を聞くと、32%は『くれるから』だが、『レジ袋が欲しいから』も24%を占めた。家庭でいろいろ再活用したいからで、店頭からレジ袋がなくなったとしても、生活スタイルを維持したい人は似た袋を買ってでも用意する。その結果、ごみの総量はあまり変わらない。ごみ減量をいうなら、レジ袋だけを標的にしてもダメで、総合的な対策が必要。石油資源の節約なら、自動車対策の方がずっと有効だ」

■タダで配布は世界の少数派

 ただ、欧州ではレジ袋は有料が当たり前で、アイルランドのように一枚約二十円のレジ袋税を設ける国もある。近隣でも台湾が基本的に有料で、韓国に至ってはレジ袋はもちろん、ホテルの歯磨きセットやひげそりなど使い捨て用品の無償提供自体が禁止されている。世界的には日本の方がむしろ少数派となってきている。

 韓国在住三年目になる本紙の中村清ソウル特派員は「スーパーでは商品をポンと渡されるのが当たり前。どうしてもレジ袋が必要なときは別のカウンターで約五円で買うことになる。その袋も厚手の立派なもので、ごみを入れて捨てるには気が引けてしまう。出張時には、下着などを小分けするレジ袋があったら便利だなと思うこともある。でも、なければないで済む。日本では、レジ袋があるから使っている面もあるのでは」と話した。

 一年前に韓国に引っ越した妻聖子さんは、娘のおむつを処理する必要もあってレジ袋を購入することが多い。「皆、普通に買い物袋を持参しているけど、私は物価が安いのでつい…。でも、日本では『もう一枚ください』を連発していたけどやめた。その分、家にレジ袋がたまらなくなった気がする」

 便利な生活に慣れた日本で、有料化はレジ袋とごみ削減の切り札になるのだろうか。その効果を試算した前出の安田教授は「各地で調査してみると、レジ袋を五十枚くらい抱え込んでいる家庭が多い。レジ袋をもらう習慣がなくなれば、必要な袋だけ買うことになり、不要な袋はなくなる。この差が削減分で、店頭での削減分とほぼ同量とみていい」と話す。

 もちろん教授宅でも見せたくないごみはあり、色付きの袋に入れてから他のごみとともに捨てている。「それでも目的をもって買う袋は最小限になる。レジ袋の再利用は大切だが、もらったから使うのでは減らないし、免罪符にもならない。レジ袋は生活習慣病のようなもので、有料化はこれと決別するきっかけになる」

<デスクメモ> 昭和三十年代、商店の包装といえば新聞紙が当たり前だった。そのまま包んだり、のりで張って袋に仕立てたり。わが家でもレジ袋は重宝しているが、この年末、湿らせた新聞紙に包んだ野菜は、松の内を過ぎても新鮮だった。便利さにはすぐ慣れるが、不便に慣れるには知恵が必要なのかもしれない。 (里)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20070121/mng_____tokuho__000.shtml