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2007年01月19日(金) 00時00分

不祥事続く金融機関 川崎信金元職員着服 東京新聞

 川崎信用金庫(川崎市)の元職員による約一億八千万円の着服事件で、詐欺容疑で逮捕された元本店融資部の田代雄三容疑者(59)=相模原市=が約十三年間にわたり、不正行為をチェックする「審査役」の立場にありながら、伝票の偽造や不正な操作で犯行を繰り返していたことが十八日、県警の調べで分かった。県内では金融機関の不祥事が後を絶たず、十七日にも横浜銀行の元行員が逮捕されたばかり。背景に何があるのか。 (石川智規、小川慎一、中沢穣、市毛史歩子)

■立場悪用

 県警や同信金によると、田代容疑者は一九八九年、住宅金融公庫から委託された住宅ローンの代理業務を行う部署に配属。九二年に係長級職の「審査役」に昇格したが、その一年後には犯行に手を染めていたという。

 同部署には上司と部下がいたが、融資業務のほとんどが同容疑者に任せきりにされ、ローン利用者の返済金を一時的に取りまとめる預託金口座も一人で管理。月に一度の自主検査も同容疑者が検査する立場だったため、不正な伝票操作に誰も気付かなかった。

 犯行の手口のひとつは同信金内に三つの仮名口座を開設し、その口座名で架空の住宅ローンを申し込み、融資金をだまし取るもの。県警は二〇〇〇年以降、この方法で計四回、四千六百万円が詐取されたとみている。

 別の手口は、住宅ローン利用者が現金で一括返済する際、その金を公庫の口座に入金せず、仮名口座に不正送金するもの。同年以降、十七回計六千三百万円分の送金が確認されており、現金の一部は横領がばれないように公庫の口座の穴埋めに利用されていたという。

 田代容疑者は「病気で休職中に給料が減り、借金を重ねていた」と供述。手にした金の半分は借金の返済に充てられていたが、残りについては「使い道が不明」(捜査幹部)という。同信金の内部調査で、同容疑者は「車の購入や家のリフォームに使った」と話しており、県警は裏付け捜査を進めている。

 田代容疑者の逮捕を受け、川崎信金の八木晋郎理事長は十八日、「再発防止ならびに内部管理体制の充実・強化に向け、全力で取り組んでいる」とコメントを発表し、再発防止に取り組んでいる姿勢を強調した。

 同信金は昨年六月、内部監査機能が働いていないとして関東財務局から業務改善命令を受け、同七月、業務改善計画を提出。事務手続きでの自主検査の厳正化、監査手法の見直し、人事異動の厳格な運用−などに取り組んでいるという。

 田代容疑者は約十七年間、本店融資部で住宅ローン返済用の預託金口座の管理を担当し、発覚まで十三年ほど詐欺行為を繰り返していたという。このため一年前の事件発覚から、全職員の四分の一を異動させた。今後も監査部門に別部門の職員を補助員として増員するほか、事務書類などについても、必ず二人以上がチェックする体制をつくるとしている。

 同信金には同日、元職員逮捕に苦情やトラブルなどはなかったという。住宅ローンなどで利用している川崎区藤崎の主婦(35)は「告訴があった当時は、ちょっと気になったけれど、もう忘れていた。どんな業界でも起こり得ることかもしれないし、仕方がないという感じ」と話し、三十年間、利用しているという同区の保険外交員女性(59)は「事件は気にはなるけれど、今さら別の金融機関に変えるのも難しい。何があったとしても、選んだ自分の責任かも」と冷静だった。

■『普通の人』 近所の人驚き

 田代容疑者が昨年まで家族と住んでいた横浜市緑区の自宅は現在、更地になり、不動産会社の看板がぽつんと立つ。登記簿によると、土地は昨年十一月に不動産会社に売却され、建物は取り壊された。

 近くに住む六十代の無職の男性は「古い家ではなかったから、何で壊すのかと思った」という。男性は「数年前に仕事上のストレスとかでよく家にいたことがあった。庭の花をよく世話していて、派手なところはなかった」と驚きを口にした。

 無職の女性(32)は「出勤の時によくあいさつしました。普通の人。信じられない」と話した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kgw/20070119/lcl_____kgw_____000.shtml