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2007年01月16日(火) 00時00分

ラジオドラマ デジタル時代で再評価 東京新聞

 洗練されたせりふ、効果音を基に、リスナーが頭の中でイメージを膨らませるラジオドラマ。かつては「君の名は」(NHK)が銭湯の女湯を空にした伝説があるほど、ラジオの主力番組だった。テレビドラマ全盛の時代にあって、民放ラジオでは減少を続けていたが、最近になって復権の兆しが…。デジタル時代の“商品”として、その魅力が再認識されているというのだ。 (井上幸一)

 一九九九年の年末に終了した「三国志」以来、七年ぶりにレギュラーのラジオドラマ枠を復活させたのがTBS。「ドライブのように」(木曜午後8時10分ごろ)を昨年十月からスタート、十二月からは人気放送作家の秋元康さんが脚本・監修を担当する「秋元康の人生はドライブ」にリニューアルしている。

 番組は、毎回十分程度の一話完結型。恋人同士や夫婦など、男女の心温まる物語を中心に放送している。スポンサーがトヨタのため、必ず自動車が登場するのがお約束。初回は、結婚予定のカップルが、新婦側の父親に初めて会った後に車中で交わす会話を軸に展開した。ベテラン俳優の橋爪功が、ひょうきんな調子で、番組の案内役を務めている。

 古川博志編成部長は、「秋元さんの作品は、普段ラジオを聴かない層にもアピールできる」と、“大物”起用の理由を説明。高校生時代にラジオドラマの脚本を投稿したのが、放送界に携わるきっかけだった秋元さんは、「映像がないラジオは、百人いれば百通りのイメージが広がる。『君の名は』のように、放送が待ち望まれる番組にしたい」と意欲満々だ。

 「ラジオ図書館」など、上質なドラマ枠が過去に存在したTBS。近年、じっくりと聴くより、何かをしながら聴くリスナーの増加に対応し、生放送、情報化路線を進めてきた。このため、手間がかかり、高コストなラジオドラマは単発中心の“冬の時代”に。他のラジオ局も、似たような状況になっている。

 今回の“復権”には、IT(情報技術)の発達で、「番組」をダウンロードして持ち運びできるポッドキャスティングや、インターネットを通じて、リスナーが自由な時間に主体的に聴ける環境が整った背景がある。古川さんは「将来的には、番組の二次利用で、利益を生むことも視野に入れている。その場合、ラジオドラマは、優良な音声コンテンツになりうる」と期待を込める。

 一方、文化放送は先月、せりふ、音楽、効果音、ナレーションまですべて生という業界初の「公開生ドラマ」に挑戦した。演目は、落語をベースにした「芝浜」。同局が昨夏に移転した東京・浜松町付近が、物語の舞台になることにちなんだ。「ラジオは落語を超えられるか!?」と大げさなテーマを掲げ、客五十人を局内のホールに招待、ライブならではの緊張感をリスナーにも伝えようとの試みだった。

 声の出演は、俳優の風間杜夫、石田ひかりらで、落語家の林家たい平が解説役に。この道五十年という“音の匠(たくみ)”同局OB・玉井和雄さんが、出演者のすぐ脇で、波音から自動販売機まで、多彩な道具を使って効果音を生み出した。

 玉井さんが実際に水で顔を洗って朝の風景を表現した場面で、石田が笑い出しそうになるなど、多少のハプニングもあったが、無事放送は終了。風間は「こんな経験は初めてで興奮した。お客さまの前で、いびきをかいたり、酔っぱらったりするのは恥ずかしいね」と感想を話し、石田も「とてもいい緊張感だった」と楽しんだ様子だった。

 今月発表の「首都圏ラジオ聴取率調査」(ビデオリサーチ)の結果、「芝浜」の放送は前回調査(10月)の同時間帯の数字を上回る好結果。特に、二十代男女、五十代女性では、前回の倍以上の数が聴いており、事前の宣伝効果もあってか、「芝浜」目当てに耳を傾けた状況がうかがえる。

 「デジタルのことを考えると、ラジオドラマはとても良いコンテンツ」と佐藤重喜社長。映像も配信できるデジタルラジオ時代に向けて、今回の「芝浜」の会場の映像も収録してあるという。今夏には生ドラマの第二弾の放送も検討中で、怪談などが候補に挙がっている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/hog/20070116/mng_____hog_____000.shtml