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2007年01月15日(月) 01時28分

1月15日付・編集手帳読売新聞

 東京証券取引所の証券史料ホールには、東証の前身が産声を上げた明治以来の株券が多く展示されている。わが国初の株式会社と言われる第一国立銀行を筆頭に、汽車をあしらった鉄道会社あり、船の図案が勇ましい海運会社あり◆日本経済を牽引(けんいん)してきた企業それぞれのデザインが、なかなかに興趣に富む。株券を眺め、投資先企業と自らの将来に思いをはせた先人も多かっただろう◆上場企業の株は、2009年から電子化され、売買や管理はすべてコンピューター処理になる。印刷などの発行コストが減り、紛失や盗難の心配がなくなる。偽造も防げるが、ひきかえに紙の株券の味わいは消える◆株ばかりではない。電子マネーや電子チケットの普及が進み、子供のこづかいは「おサイフケータイ」にチャージという例もある。デジタル技術の進歩でお金も資産もペーパーレス化が進む。正確に保存し必要な時に簡単に使えるのは、確かに便利だが◆映画「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」に、妹夫婦が家を持ったお祝いにと、寅さんが借金で工面した1万円札2枚に丁寧にアイロンをかける場面があった。相手がデジタル信号では、アイロンがけもままならない◆株券1枚に託す夢、お札に込める思い。デジタル化できぬものが、紙の手触りとともに消えゆくなら、少々味気ない。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070114ig15.htm