記事登録
2007年01月14日(日) 01時51分

1月14日付・読売社説(1)読売新聞

 [災害弱者対策]「リスト作成阻む情報保護の壁」

 命より「情報保護」が大事なのか。

 過剰な個人情報保護の意識が壁になり、高齢者や障害者ら災害弱者に対する自治体の救援リスト作りが進まない。

 災害が、いかに弱者に大きな被害を与えるか。12年前の阪神大震災の教訓を忘れてはならない。

 阪神大震災では、60歳以上の人が犠牲者の半数を上回り、身体障害者の死亡率は健常者の6〜13倍に上った。その後も大規模災害のたびに、高齢者や障害者らの逃げ遅れが問題になる。

 政府は一昨年、「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を策定した。市区町村が、福祉部局の個人情報を基に、災害弱者の住所や氏名などのリストを作成し、消防団や自主防災組織、民生委員などと情報を共有して、1人1人の避難支援計画を作るよう求めた。

 だが、総務省消防庁の全国調査では、昨年3月時点で個別の支援計画まで作成した市区町村は、一部作成を含めても63団体、3・4%にすぎなかった。

 情報漏れに過度に神経質になり、すくんでいる自治体が多すぎる。

 リストへの登録は、個人情報保護法が「本人の利益になる時」などに認めている個人情報の正当な第三者提供に当たる。ガイドラインに、こうした政府見解を明示しているのを見落としたのか。

 救助が必要な人の所在がつかめねば、救える命も救えない。その責任をどう考えるのか。足踏みしたままの自治体はすぐに登録作業に取りかかるべきだ。

 登録の進め方にも及び腰の姿勢が見える。登録希望者を広報紙などで募る自治体が多い。災害弱者の自主性に委ねる方式だが、こうした自治体での登録は対象の1割程度にとどまっている。

 内閣府は、本人の同意を得なくても情報を関係機関に提供し、担当が直接訪問して個別の避難支援計画を作る方式を推奨している。登録漏れをなくすには、躊躇(ちゅうちょ)や手間を惜しむことは許されない。

 東京都渋谷区は、本人の同意なしに自主防災組織などへ情報提供できるよう条例を改正した。長野市は消防職員らが戸別訪問して弱者の危険度を点数化し、消防指令システムに入力している。

 災害時には、弱者の支援に責任を持つ支援者自体が被災する場合もある。支援の担い手を増やし、弱者1人に複数の支援者を組み合わせたい。東京都荒川区は高齢者らをおんぶやリヤカーで救い出す「おんぶ隊」を組織している。

 災害弱者自身も、近所や関係団体との連絡を密にし、自らの状況を常日ごろから知っておいてもらうことが大切だ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070113ig90.htm